東宝で8回目の上演を迎える『RENT』。プロデューサーが守り続けるこだわりとは?

東宝で8回目の上演を迎える『RENT』。プロデューサーが守り続けるこだわりとは?

2026年10月15日

1996年の初演以来、世界40カ国以上で上演されているミュージカル『RENT』。当時の世相を背景に、エイズ、ドラッグといった生きづらさや死と隣り合わせの問題に翻弄されながらも、愛や友情を信じ、夢に向かって懸命に生きる若者たちを描いた群像劇です。東宝では2008年にシアタークリエで初演の幕を開け、2026年10月に8回目の上演を迎えます。その初演から一貫して、東宝で『RENT』のプロデューサーを務めてきた小嶋麻倫子さんに、作品への思いや、製作するうえでこだわり続けてきたことについて、話を聞きました。

小嶋 麻倫子

東宝株式会社
演劇部 チーフプロデューサー

小嶋 麻倫子

こじま まりこ

コロンビア大学大学院芸術学部演劇学科ドラマタージー専攻卒業。ブロードウェイ史上最年少ドラマターグ。2005年、東宝に入社。主なプロデュース作品に『RENT』『ピアフ』『ダディ・ロング・レッグズ』『梨泰院クラス』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』など。ミュージカル作家・作曲家の育成にも注力。

「これは自分たちの物語だ!」。100回観ても色あせない作品

――小嶋さんにとって『RENT』とはどのような存在ですか。

実は、『RENT』はアメリカで100回くらい観ているんです(笑)。

初めて『RENT』を観たのは、1997年のことです。そのときは「話題になっているから観てみよう」という程度でした。もちろんとても良いミュージカルだったのですが、そこまで深く胸に響いたわけではなかったんですね。

その翌年、コロンビア大学の大学院で演劇を学ぶため、ニューヨークに渡りました。まさに『RENT』の登場人物たちのような、お金がなくて、学費のために借金までしながら創作に一生懸命打ち込んでいる若者たちばかりの環境です。彼らと日々を過ごすなかで改めて『RENT』を観たとき、「これは自分たちの物語だ!」と、すっかり夢中になってしまって。

それから7年ほど、多いときは週に2~3回観ていたので、トータルで100回は観ているはずです。それでも観るたび新鮮に感動して、毎回号泣していました。『RENT』は若者たちの群像劇。ストーリーや音楽が素晴らしいことはもちろん、さまざまなキャラクターが登場するので、どんな人でも登場人物の誰かの視点に立てることが魅力の一つだと思います。

演劇の勉強をするなかで、自然と『RENT』に関わる機会にも恵まれました。『RENT』の製作会社でインターンもしましたし、『RENT』が初演された劇場では、応募されてくる戯曲を下読みして選定する仕事もしました。そのとき『RENT』のオリジナルキャストであるアンソニー・ラップと知り合い、彼のCDを手売りする手伝いまでして……(笑)。その後、彼と日本のキャストと合同での「RENT Gala Concert」を企画し、彼を連れて日本に来ました。いちファンとして、大好きな『RENT』を追いかけていたら、どんどん関係者とつながりができていったんです。

今振り返れば、現在の仕事につながる経験だったと思います。でも当時は、まさか自分が『RENT』のプロデューサーになるとは夢にも思っていませんでしたね。

『RENT』という作品に敬意を払うために、自分に何ができるのか

――東宝のプロデューサーになった経緯を教えてください。

2004年に夏休みで日本へ帰国したとき、東宝のミュージカル『ミス・サイゴン』の現場で通訳のアルバイトをしました。ちょうどそのころ、東宝はシアタークリエの立ち上げにあたって、若手の女性プロデューサーを探していたそうなんです。

当時、私は通訳・翻訳をしつつ、ドラマターグ(演出家や劇作家の伴走者)としても、複数のミュージカル作品に携わっていました。そのことを知った東宝の方から「プロデューサーをやってみないか」とお誘いをいただいて、2005年に東宝に入社しました。

ただ、プロデューサー業はまったくの未経験だったので、入社後1年間は「修業期間」として、舞台裏スタッフとして働きながらプロデューサー業のいろはを学びました。2007年のシアタークリエ開業とともに、プロデューサーとして独り立ちした形です。

プロデューサーの仕事は多岐にわたります。企画立案やキャスティングなどを通じて、どのような方向性で作品を作り上げていくのか、各方面と話し合いながら決めていかねばなりません。予算管理や宣伝活動など、実務的な仕事も含まれます。作品の完成度を高めながら、ビジネスとしても成功させる。その両方を成立させる目線が求められます。

――2008年には、プロデューサーとして『RENT』の東宝初演を手がけていますね。

東宝が『RENT』を手がけると聞き、自分にプロデュースをさせてほしいと申し出ました。「大好きな作品に関わりたい」という純粋な動機というよりはむしろ、『RENT』が生まれた背景を熟知しているからこそ、「商業演劇専門の東宝は手がけるべきではないのでは?版権を取得してしまったのであれば、私がやるしかない」と考えたからです。

『RENT』はアーティストたちが芸術の商業化に抗いながら、夢を追い続ける物語でもあります。内容だけでなく、製作背景にもそのマインドは根付いています。『RENT』が初演されたのは非営利団体が運営する劇場でしたし、当時のキャストやスタッフはほとんどが無名でした。

東宝が『RENT』を手がけるとき、商業の劇場で成立させつつ、いかに『RENT』が持つ反骨精神や若いアーティストたちのエネルギーといったマインドを引き継げるか。その挑戦こそが作品の完成度を高め、ひいては集客につながるはずだと考えました。

――どのように取り組んだのですか。

「ミュージカルに関わってない人こそ大歓迎」という一般オーディションを開きました。ミュージカル界以外からも、幅広くキャストを募集したんです。有名無名を問わず、集まったキャストたちを平等に見ることが、『RENT』という作品に敬意を払う姿勢であると思ったからです。

また、「今ジョナサン・ラーソンが『RENT』を上演するとしたらどうする?」を絶えず問い続け、衣裳やセットにもこだわりました。東宝版のセットを手がけたのは当時まだ無名だったデヴィッド・コリンズ。現在はブロードウェイで『ハミルトン』や『ビートルジュース』といったヒット作を手がけているセットデザイナーです。

こうして迎えた初演は、70公演以上がほぼ即日完売しました。『RENT』が持つ社会への関わり方を形にしたかったので、ブロードウェイのオリジナルキャストをわざわざ日本に招いて、休演日に日本人キャストと合同のチャリティー公演を開き、売上を赤十字などに寄付しました。

オリジナル版のメッセージを大切にすることに、初演からこだわり続ける

――ロングランを続けるなかで、変化を感じる部分はありますか。

2008年に初演を迎え、2012年からはオリジナル版を手がけたマイケル・グライフによる新演出版を上演しています。回を重ね、今回が8回目の上演になります。

オリジナル版の『RENT』は1990年代に製作されました。創作の悩みや恋人を亡くす痛み、そして作品を貫く「No Day But Today(今日という日しかない)」というメッセージは普遍的なものであり、現代にも通じるものだと思っています。

一方で、『RENT』はエイズ、セクシャリティ、ドラッグなどが物語のバックグラウンドにあります。ロングランを続けているあいだに、エイズを取り巻く医療環境や、セクシャルマイノリティへの社会の受け止め方も変化してきました。当時のことを知らない世代にも共感してもらえるよう、上演のたびに演出面や宣伝活動のブラッシュアップを続けています。

また、東宝が製作する『RENT』では、毎回稽古の序盤にさまざまな「勉強会」を行っているんです。1990年代のニューヨークの空気感やエイズを取り巻く当時と現在の状況を知るため、支援団体の方などを招き、キャスト、スタッフ全員で理解を深めています。今回はアメリカからのリモートも含めて4回ほど行います。

――小嶋さんが初演からこだわり続けてきたことを教えてください。

『RENT』という作品を通して、ジョナサン・ラーソンが伝えたかったものを届けることです。

『RENT』の作詞・作曲・脚本を担当したジョナサン・ラーソンは、7年かけて作品をつくり上げたあと、プレビュー公演の前日に35歳の若さで亡くなりました。「No Day But Today(今日という日しかない)」をはじめ、彼が『RENT』という作品に込めた数々のメッセージを、できるだけ多くの方に伝えることが自分の仕事であり、使命だと考えています。

――オリジナルに忠実でいるために心がけていることはありますか。

製作で迷いが生じたときは「ジョナサン・ラーソンならどうするだろう?」と考えるようにしています。

これは私だけでなく、スタッフも同様です。スタッフのなかには、ジョナサンとオリジナル版を一緒に作ったアーティストもいますし、アメリカで『RENT』に出演した経験を持つ方もいます。オリジナル衣裳デザイナーのアンジェラが今でも毎回稽古に参加して、キャストに合わせてデザインを改訂しているのは、世界で日本だけだと思います。全員が『RENT』が持つスピリットを共有し、作品づくりの中心に据えていることが、東宝が手がける『RENT』の最大のこだわりではないでしょうか。

東宝が『RENT』で新たな扉を開いたように、私自身も新たな挑戦を

――東宝でミュージカルをつくる面白さは何ですか。

東宝には、長年のミュージカル製作で培ってきたノウハウが蓄積されています。東宝という盤石な基盤があること、そして周りにたくさんの仲間たちがいることが、大きな安心感を与えてくれるんです。「絶対に何とかなる」と思えるからこそ、リスクを恐れずに、新たな挑戦ができる。それが東宝でミュージカルをつくる面白さだと感じています。

まさに『RENT』も、そうした挑戦の一つと言えるでしょう。これまで東宝になかったタイプの作品に挑み、ロングランを重ねるまでになったことで、東宝ミュージカルの新しい扉を開けることができたのではと思います。

私自身も歩みを止めないことを常に意識しています。昨年は韓国発のウェブ漫画『梨泰院クラス』を世界で初めてミュージカル作品として上演しました。日本・韓国・アメリカにそれぞれ在住するクリエーターたちとオンラインで協働し、脚本や音楽などを一緒につくり上げることに挑戦した作品でした。

また、東宝の新たな試みとしてミュージカル作家・作曲家の育成を目的とした「Musical Theater Writing Program」を企画し、2024年から映画演劇文化協会の主催で毎年開催しています。日本ではまだほとんどいないミュージカル専業作家を育てることで、日本発のオリジナル作品がたくさん生まれることを期待しています。

新たな顔ぶれが生む、予測できない「化学反応」に期待

――2026年秋に8回目の上演を迎える『RENT』について、見どころを教えてください。

今回はキャストを大幅に刷新しています。これまでと同様に、すべての役においてオーディションを徹底して行っています。マーク役の鈴木福さんをはじめ、俳優としてキャリアがある方もオーディションを受けて役が決まっています。

毎回のことですが、今回が初舞台という方もかなり多いですね。キャリアがなくても役にふさわしければ初舞台のキャストでも積極的に起用するのも『RENT』のスピリットの一つ。実際にオーディションに立ち会いましたが、強烈なキャラクターが揃ったなという印象です。公演を通じて、個性あふれる若者たちが成長していく様子も楽しみにしています。

私はプロデューサーであると同時に、一人のミュージカルファンでもありますが、東宝の『RENT』は毎回どんな化学反応が起きるのか、いい意味で想像がつきません。自分が一番ワクワクしています(笑)。この何が起こるか予測できない個性のぶつかり合いこそ、『RENT』の最大の魅力でしょう。

初めて『RENT』をご覧になる方にとっては、これまで観たことがないような作品との出会いになるのではないでしょうか。もちろん、すでに『RENT』をご覧いただいたことがある方にも、変わらない面白さと、新しい体験の双方をお届けできるはずです。ぜひ劇場に足を運んで、その瞬間にしか生まれない熱を感じていただけたらと思います。


ミュージカル「RENT」の公式Webサイトを見る

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