「すずめの戸締まり」おかえり上映

2023.09.30
  • 公開後舞台挨拶

おかえり上映

新海誠監督の「すずめの戸締まり」のBlu-ray&DVDが9月20日に発売となり、これを記念して同日より“おかえり上映”と称して、10月5日まで全国100館にて特別バージョンの映画本編が上映されます。
東京・日比谷のTOHOシネマズ 日比谷にて、新海監督と主人公・鈴芽の母親である椿芽の声を担当した花澤香菜さんによる舞台挨拶が行われました。新海監督と花澤さんが一緒に舞台挨拶に立つのは、「言の葉の庭」(2013年公開)の公開以来、実に10年ぶりのこと! こちらの舞台挨拶の模様をレポートいたします。

新海誠監督

岩戸椿芽役

花澤香菜さん

岩戸椿芽役

新海監督

初めましての方、もしかしたら何度も見ているという方もいらっしゃるかもしれませんが「すずめの戸締まり」の監督をしました新海と申します。今日はお忙しいところ来ていただいてありがとうございます。楽しい時間にできればと思いますのでよろしくお願いします。

花澤さん

このイベントが上映前で良かったかもしれません。上映後だと、観終わった後は私は大号泣だったと思うので、皆さんが私たちの話を聞いているどころじゃなかったと思います(笑)。ぜひ楽しんでいってください。

MC

新海監督、とうとう花澤さんが「すずめの戸締まり」の公式イベントに来てくださりました。

新海監督

花澤さんと一緒に舞台挨拶に立つのは、ちょうど10年前の「言の葉の庭」という作品で主演を務めていただいた時の初日イベント以来じゃないですかね?

花澤さん

そうですね。それ以降もお仕事は一緒していますけれどね。

新海監督

お仕事ではご一緒していますが、登壇は10年ぶりですよね。こんな機会をいただけてうれしいです。

花澤さん

こちらこそうれしいです。ありがとうございます。

MC

本日、「すずめの戸締まり」のBlu-ray&DVDが発売されました。

花澤さん

おめでとうございます。

新海監督

ありがとうございます。

MC

今年の5月に終映して、三カ月半ぶりにスクリーンで再び上映となりました。

新海監督

5月に「これで最後です」と、皆さんとお別れしたんですが、わりとすぐ戻ってきてしまって申し訳ないです(笑)。実は、鈴芽の旅は2023年の9月を描いたつもりだったので、ちょうど今のお話なんです。「このタイミングに合わせて上映ができたら良いよね」という話は、去年からしていたので、それが今回実現できたことはうれしいです。公開して十カ月も経つ作品にこんな風にたくさんの方に来ていただいてうれしいですし、幸せだなと思います。改めて今日は来てくださってありがとうございます。

MC

本日、発売されたということで、すでに自宅でDVDやBlu-rayを観て来たという方もいるのではないかと思います。

新海監督

そうですね。最初にちょっと、僕から会場の皆さんに質問しても良いですか?
実はまだ、DVDも観ていなくて、映画館でも観ていなくて、これからこの作品を初めて観るという方はいらっしゃいますか?

花澤さん

いるかもしれない…あ! いた! 良かった!

新海監督

来てくださってありがとうございます。じゃあ、ネタバレしないようにしないといけませんね。

花澤さん

そうですね、それは難しいですね(苦笑)。

新海監督

花澤さんは観客の皆さんに聞いてみたいことはありますか?

花澤さん

「言の葉の庭」を観たことあるよって方いますか? (会場を見ながら)いらっしゃいますね! ありがたいです。

新海監督

花澤さんと初めて一緒に仕事した作品で、今でも「『言の葉の庭』が一番好き」と言ってくださる方がいるんですよね。10年前の花澤さんのお芝居が見られるのでぜひ観てみてください。

花澤さん

じゃあじゃあ、この質問を聞いてみますか?
Blu-rayを観てから来たよって方はいらっしゃいますか?
(多くの手が挙がった会場を見て)すごい! ありがとうございます。

新海監督

朝から「すずめ」漬けですね。普通、一日に同じものを何度も観ないですよね(笑)。実は、パッケージに収録されているものと、今日、これから皆さんに観ていただくものはちょっとだけバージョンが違うんです。もちろん物語は一緒で、内容も99%一緒なんですが…。これから観られると思うのであまり言えませんが、物語の本当に最後のところで、去年まで公開していた時には入っていなかった一言が入っているんです。

花澤さん

あ、あれだ!映画館で聴きたいですね!

新海監督

パッケージの特典映像にもその部分の独立したクリップが入っているんですが、それともまた違う、今回の劇場版のために編集し直したバージョンです。もしかしたら、もう何度も「すずめ」を観たという方は気づくかもしれません。あと、もう一個だけ、本当にマニアックな方向けですが、前半でも一カ所だけ、「んんっ」と息を追加しているカットがあります。松村北斗くんが演じているキャラクターが、一生懸命何かを押しているシーンで、「ここに息がほしい」と思っていたんですが、入れていなかったカットがあったんです。そこを今回追加しました。ほっくん(松村さん)にもそれはまだ言っていないんですが、他のシーンでの息のお芝居を取ってきて、入れています。すごくちょっとした差ですが、ここでしか見られないバージョンを今日は観ていただけると思います。

MC

監督のお話にもありましたが、Blu-ray&DVDには様々な特典などがついています。副音声も入っているんですが、今回、副音声付きの上映も行っています。監督の作品で副音声上映をするのは初めてですよね?

新海監督

オーディオコメンタリーを僕と助監督の三木陽子の二人で録ったんですが、今日、本作を観ながらそれを聴いてもらえるということで、こちらも後半、DVDに収録されているものからちょっとだけ録り直しをています。ここに来ている皆さんに話しかけるつもりで再収録しているので、もしアプリがある方は聴いてみてください。今日、初めて本作を観るという方は、「周りの人たちが何をしているんだ?」 となるかもしれませんが、初めての方にはできれば最初は普通に本作を観ていただければと思います。

花澤さん

大丈夫ですか? コメンタリー内で怒涛の爆笑トークはしていないですか(笑)? みんなクスクスしちゃったりしませんかね。それも味わいたいですね。

新海監督

笑うべきところじゃないところで笑っていたりね(笑)。

MC

花澤さんには、改めて今回新海監督から「すずめの戸締まり」の岩戸椿芽役でオファーを受けた時のお話を聞ければと思います。

花澤さん

オファーをいただいた時のことなんですが、実は本編より先に、ハンバーガーチェーンのCMの椿芽の収録をやっていました。

新海監督

映画のコラボ企画でハンバーガーチェーンのアニメCMを作ったんですが、その中で、鈴芽が全国を旅しながらお母さんとハンバーガーを食べた子供の頃のことを思い出す、というシーンを作ったんです。それが花澤さんの「すずめの戸締まり」の最初のアフレコだったんですよね。

花澤さん

オファーをいただいた時点では「ハンバーガーチェーンのCMへの出演です」という話だと思っていたので、本編の出演もあると聞いて「えぇっ!『すずめの戸締まり』に出られるんだ!」となってびっくりしました(笑)。

MC

もちろん、CMに出ていただいたからついでにオファーしたわけではなく、ちゃんと最初から「すずめの戸締まり」本編のオファーということで…?

新海監督

当たり前じゃないですか(笑)。

花澤さん

そういうことだったんですね。

新海監督

たまたま最初に収録したのがCMでした(笑)。

花澤さん

そういうことだそうです(笑)。お母さんの役っていうのをいただいて、それはすごく感慨深かったです。

新海監督

私も大人になったなと(笑)?

花澤さん

違います! だって「言の葉の庭」で監督とご一緒したのは24歳の時で、ちょっと背伸びした女性の声を演じたんです。そこから(「天気の子」では)小学生になりました(笑)。

新海監督

そうでしたね。

MC

この花澤さんの変遷に関しては皆さんも気になると思いますので、映像にまとめました。ぜひ皆さんと一緒に花澤さんの遍歴を見ていきたいと思います。

■「言の葉の庭」、「君の名は。」、「天気の子」、「すずめの戸締まり」の花澤さんの演じた役柄の映像が流れる。

花澤さん

まとめてくださってありがとうございます。

MC

改めてお二人ともどうですか?

新海監督

劇場の大きな画面とスピーカーで、今すごく久しぶりに(「言の葉の庭」の)雪野先生とかのセリフを聞いて、ちょっと鳥肌が立ちました。本当に素晴らしいお仕事をしてもらっていたんだと思いました。
ご自身ではどうでした?

花澤さん

いやあ、「ちっとも変わらないなぁ」と(笑)。

MC

そうですか?

花澤さん

「言の葉の庭」とかは、結構、自分なりに背伸びしたつもりでしたが、今の声と変わらないかもしれない。

新海監督

花澤さんの声ではありましたが、雪野は27歳で、ちょっと仕事に疲れた女性という雰囲気を出してほしいと思いつつも、どこかまだ幼さのある女性の演技がほしかったんです。ですから25歳以上の女性からオーディションをしようと思ったんですが、まだ規定に達していない24歳の花澤さんの応募があったんです。

花澤さん

無鉄砲にも「新海監督のオーディション、絶対に受けたいんです!ちょっと忍ばせてください!」とマネージャーさんにお願いしました。

新海監督

だけど、オーディションで声を聴いたら、「僕がイメージしていた雪野さんとは全然違うところが、もしかしたら雪野さんなのかもしれない」と思わせてくれる説得力があって、最終的にお願いしたんですよね。アフレコの初日を僕はすごくよく覚えています。「(舞台になった)新宿の日本庭園に行ってきました」とおっしゃっていました。アフレコ初日に日本庭園を散歩してきたんですよね。確か、その時緑色の服を着ていましたよね?

花澤さん

緑色の服、着ていましたね!

新海監督

作品のイメージをまとって来てくださったんだと思いました。役への向き合い方みたいなことも含めて、すごい人だと思いました。

花澤さん

「どうやったら雪野先生になれるんだろう?」っていうことばっかりあの時期は考えていました。オーディションで、声だけじゃなくて、ちょっと面接っていうか、顔合わせ的なものがあるっていう経験も初めてでした。

新海監督

すみません、何かご面倒をかけてしまって(苦笑)。

花澤さん

いや、そうじゃなくて、それで心構えができたというか、ちゃんと自分を見てもらったっていう感じはしました。

新海監督

あの時も、何人かの役者さんとお会いして、どういう人かを確認してからやりたいと思っていました。「君の名は。」の時も、(主人公の瀧を演じた)神木隆之介くんと、ちょっと面接じゃないけれどお話をして、それで確信を持って彼にお願いしたんですね。今回も、原菜乃華さんに鈴芽役をお願いしたんですが、ちょっとお会いしてお話をしてみて、そこで確信を持てたので、「スタッフ何百人かが何年もかけて作ったものを、この人に託そう」という気持ちでお願いしました。

花澤さん

役のことだけじゃなくて、私のこと――大学時代どうだったかとか、いろんなことをお話したのを覚えています。丁寧に面接していただきました。

新海監督

あの時、もう、僕らにとって花澤さんは超人気の声優さんでした。「言の葉の庭」の後、どんどん活躍の幅を広げられて、武道館のコンサートも行った覚えがあります。今朝もちょっと久しぶりに会うということで、花澤さんのYouTubeチャンネルを見てきました。

花澤さん

本当に何を見ているんですか! やめてください(笑)!

新海監督

「花澤香菜への100の質問」とかあるので、よかったら皆さんも見ていただければと思います。おかげで、今は花澤さんに詳しいです。嫌いな食べ物が砂肝で、好きな動物はカエルだそうです。

花澤さん

ちょっと怖いです(笑)!

新海監督

(笑)。自分たちの作品の外での活躍を見ることが増えて、まぶしい気持ちで見ていたんですが、久しぶりに一緒に壇上に立ててうれしいです。

花澤さん

こちらこそ、うれしいです。

新海監督

母親としての椿芽役も、やっぱり雪野さんとは明確に違うものをいただけたと、さっきの映像を観ても分かりました。

花澤さん

お母さん役というのが、本当に徐々に増え始めた頃にオファーをいただいたので、「ちゃんと演じられたらすごく自信になるだろうな」って思いながらやっていました。

新海監督

じゃあ、おばあちゃん役までお付き合いよろしくお願いします。

花澤さん

よろしくお願いします(笑)。

MC

「言の葉の庭」と同じ役柄なので、「君の名は。」にも出ていただくのは分かりますが、「天気の子」はなぜ小学生役で、しかも「カナ」という名前にしたのですか?

新海監督

単に作品ごとに花澤さんに会いたいなという気持ちもあるんですが(笑)。でも、それだけでなく、ちゃんといくつか理由があるんです。
「すずめの戸締まり」は、子どもの役、例えば子どもの頃の鈴芽も出てくるんですが、それは実際の子役に演じてもらっているんですね。「すずめの戸締まり」は、出てくるキャラクターが“キャラ”というよりは実在の人物みたいな、そんなトーンで描きたいと思ったんです。それは観ていただくと分かると思いますが、この作品は、日本の大きな災害と絡む物語なんですね。なので、現実と地続きの話にしたいと思って、キャラクターも現実味のある人物にしたいと思ったんです。「天気の子」の時は、フィクション色が強い展開や結末だったこともあって、ややキャラクターたちも漫画などに寄せたバランスにしたいと思いました。だから出てくる子どもたちも、大人の声優の方に子どもの芝居をやってもらったんです。そんな中で、僕の知っている声優さんは花澤さんと佐倉綾音さんくらいだったので、おなじみの方にお願いするのが一番安心だなと思ったんです。

花澤さん

キャラクターと名前まで一緒にしていただいて、うれしかったです。エンドロールを見ながら「良いのかな? 本当に…」ってずっと思っていました。

新海監督

佐倉さんも、僕はZ会のCMでご一緒していたので、なじみがありました。花澤さんと一緒にお呼びしたんですけれど、佐倉さんは花澤さんが大好きなんですよね。

花澤さん

そうですね。慕っていただいています(笑)。

新海監督

だから「花澤アヤネ」という名前を本編に出したりして。その後、佐倉綾音さんのラジオに呼んでいただいた時に、その役名の話をしたら「私、花澤さんと結婚しているじゃないですか!」と彼女が叫んでいました。

花澤さん

とんでもない発想力ですよね(笑)。

新海監督

でも、そんな風に喜んでもらえて良かったと思ったっていうことを急に思い出しました。

MC

「すずめの戸締まり」は、主役の鈴芽ちゃん役で原菜乃華さん、宗像草太役で松村北斗さんが出演していますが、花澤さんもアフレコでご一緒されたそうですね?

花澤さん

そうなんですよ。直接お二人と絡むシーンはなかったんですが、私のアフレコを見てくださっていました。

新海監督

二人ともアニメーションも大好きなので、「憧れの人に会いたい」って来ていましたね。

花澤さん

後ろからじっと見られている感じがして、そのプレッシャーったらなかったです! 音響監督の山田陽さんがお二人に「何か花澤に聞きたいことあったら聞きな」みたいな話をしているのが聞こえて「そんなのあるわけないじゃないですか!」って思ったんです。でも、「走りながらのセリフの時はどうしているんですか?」とか具体的なことを聞いてくださったりしましたね。

新海監督

二人ともアフレコが初めてだったので、必死に「どうやればできるんだろう」ということを毎日探すような状態だったと思うんです。そこで「本物が来た」っていうことで、何かちょっとでも持ち帰ろうとしていたのを思い出しますね。

花澤さん

「声大きい!」と言われたのは覚えています。

新海監督

そうそう。マイクの通りが全然違うとびっくりしましたね。

花澤さん

いや、私にとっても貴重な体験でした。

新海監督

最近の二人の話で言うと、この間、久しぶりに菜乃華さんと北斗くんに会いました。パッケージができたので渡すのと、菜乃華さんのお誕生日も近かったのでみんなで食事に行ったんです。花澤さんは「言の葉の庭」の後、すごく活躍なさっていますが、二人も「すずめ」の後もものすごく活躍していて、菜乃華さんは「ミステリと言う勿れ」(2023年9月公開/主演:菅田将暉)という今公開している作品に出ていて…観た方はいらっしゃいます? 
(会場の観客に問いかける)結構いますね。めちゃくちゃ面白いんですよ。「原菜乃華映画」みたいで、最初から最後までずっと菜乃華ちゃんが出ていて、声の芝居がすごく良いんですよ。

花澤さん

いや、菜乃華ちゃんの声、めちゃくちゃ良いですよね。すごく好きです。

新海監督

そうなんです。だから芝居も、声にも力がある人だと思います。北斗くんも来月、岩井俊二監督の「キリエのうた」っていう作品に出演しますよね。岩井さんのことはご存知ですよね?

花澤さん

もちろん知っていますし、監督と仲良しなんですよね?

新海監督

僕、岩井さんが「キリエのうた」を撮っている時に、現場で「北斗くんという子がすごく良いんだよ」って聞いたんです。「じゃあ、オーディションに呼んでください」って言って、そこでほかの参加者の方々と一緒にフラットにオーディションを受けてもらって「良いな」と思いました。そういう意味では、岩井さんのおかげで出会えたという部分もあるんです。僕がパクっているんですけどね(苦笑)。
「キリエのうた」も観たんですが、北斗くんの声がものすごく良かったんですよね。他の作品の話ばっかりして申し訳ないですが(笑)、彼の芝居が、草太ともまた少し違って、本当に魅力的な別の人物として良いので、良かったら観てください。

MC

ちょっと花澤さんの話に戻るんですが、先ほど四作の映像を観ましたが、どの作品がお好きかを会場の皆さんから聞けたらと思います。

花澤さん

じゃあ…「言の葉の庭」が好きだよって方? あ、結構いらっしゃいますね。うれしい。ありがとうございます。

新海監督

「君の名は。」は「言の葉の庭」と同じキャラクターですよね(笑)。だけど、作中では何年か経っていて、ちょっと大人になっているんですよね。

花澤さん

じゃあ「天気の子」は?

新海監督

(手を上げる観客を見て)小学生版が好きだということですね、分かります。

花澤さん

では「すずめの戸締まり」は? 結構いらっしゃるんだ!

新海監督

これから初めて観る方もいらっしゃると思うんですが、ちょっと切ないシーンで、悲しくなるぐらい幸せな時間を演じてくださいました。

花澤さん

親子役で一緒に録りましたね。

新海監督

小さな鈴芽役の三浦あかりちゃんと一緒に。手取り足取り教えてあげていましたね。

花澤さん

そんなことないです。あかりちゃんがめちゃくちゃ上手でした。

新海監督

上手でしたね。花澤さんもデビューは子役ですよね。

花澤さん

でもあんなに達者じゃなかったです。

MC

今回、お母さん役を演じるっていうことで、監督からアドバイスはあったんですか?

新海監督

アドバイスみたいなのは特になくて、もう台本を読んでもらえれば、あとは花澤さんの思うようにやっていただければ全く問題ないと思っていました。そんなに話していないよね。

花澤さん

そうですね、あんまり話していないですね。本当にただ世間話をしただけでしたね。私は演じるにあたっては、この作品の中で、さっき監督もおっしゃっていましたが、「見ていて切なくなるぐらい、本当に幸せに演じたら良いのかな」と頭に置いておいて、あとはもう、二人の掛け合いをどれだけ密にできるかっていうのを意識してやっていましたね。ほかに意識したのは、方言の演技ですね。

新海監督

日本各地を回る話なので、キャラクターごとにちょっとずつ方言があるんですよね。お母さん(椿芽)は、東のほうの出身ということにしているから、ちょっとだけその地方の訛りをにじませているんですよ。

花澤さん

訛りの度合いを調整してやっていましたよね。一番訛りが強いとどんな感じかというのを、方言指導の方に入っていただき、演じてもらってっていうのを繰り返していました。

新海監督

方言の演技でいうと、深津絵里さんが演じる環が、とても複雑な役なんですよね。環は椿芽の妹なので同じ東のほうの出身でもありながら、今住んでいる九州の人でもある。二つの方言が、だんだん移り変わっていくという難しい演技だったので、東西それぞれの方言指導の方に入っていただいて、バランスを調整して録っていました。

花澤さん

そうだったんですね。それめちゃくちゃ大変そうですね!

新海監督

すごくご苦労されつつも、「もう少しここはこっちの方言が強い方が良いんじゃないですか」と主張されて、勉強になりました。

花澤さん

その環さんの声とちょっと似ているって言われるのがすごくうれしかったんですよ。ちゃんと姉妹になれていたんだなって思いました。それに深津さんの姉なんて、最高じゃないですか!

新海監督

底知れない人でした。僕の中では深津絵里さんとRADWIMPSの野田洋次郎さんの雰囲気がすごく似ているんですよ。この人たちの前でちょっと嘘を言ったり、ちょっとお世辞を言ったりすると全部ばれちゃうような感じがしました。なんか全部見透かされてしまうようなすごみのある二人で、すごく似ていると思いました。

花澤さん

それは直接お会いしてみないと分からないかもしれないですね。

MC

花澤さんから見た新海誠監督作品の魅力みたいなものも聞かせていただきたいです。

花澤さん

私はやっぱり、モノローグで畳み掛けていくところが、監督の作品を観ていて一番グッとくるところですよね。

新海監督

「言の葉の庭」でも結構多いですよね。「27歳の私は、15歳の頃の私より少しも賢くない」とか。モノローグを書くのが、すごく好きなんですよ。なので、「言の葉の庭」で花澤さんや入野自由くんにモノローグを言ってもらえて、すごく楽しかったんです。だけど、その後、「君の名は。」では東宝のプロデューサーとかから「モノローグをなくしませんか?」みたいなことを言われるようになりました。「そのほうが、大衆映画としては見やすいです」といったことを、川村元気プロデューサーからも結構言われましたね。「すずめの戸締まり」も最初はモノローグから始めていたんですが、「外しましょう」と言われて、じゃあ外してみるかと思って外してみたら、ちゃんと成立していたんですね。自分が好きなものと、多くの観客が好きなものってちょっとずつ差があったりするから、この10年ぐらいはそのギャップをどうやって見つけて、でもどうやって自分がより好きなものにしていくかっていう、試行錯誤の期間でもあったんです。でも、今日花澤さんの言葉を聞いて、次の作品はモノローグを入れようと思いました。

花澤さん

良いですね。モノローグ合戦みたいにしてください。

新海監督

すごく入れると思います(笑)。

MC

花澤さんに、新海監督の次の作品やこれから先、監督の作品で観てみたいものを聞こうと思っていたんですが、モノローグいっぱいの作品ですね。

花澤さん

モノローグいっぱいで、やっぱり大人の恋愛を見てみたいなと思います。

新海監督

「言の葉の庭」は少し近いものがありましたね。大人かぁ…。やりたいんですが、やるべきタイミングがもう少し先にあるような気がするんですよね。今はもう少し小さな子から大人まで劇場に足を運んでくれる人を作りたいと思っているんです。ですから、もうちょっと時間が経ったら…。「黄昏流星群」って漫画知っています? 人生の黄昏時の50代、60代、70代の人ばかりが恋愛をする漫画なんですが、すごく好きなんです。

花澤さん

ありますね。

新海監督

日本の平均年齢もどんどん上がっているから、いつかああいうアニメーションを作りたいなってずっと思っていますね。

MC

監督がそれぐらいの年齢になった時にどうですか?

新海監督

花澤さんにおばあちゃん役をお願いします。

花澤さん

よろしくお願いします。

MC

ちなみに監督の新しい作品はいつ頃観られるんですかね?

新海監督

そうですね。なるべく早くお客さんに観てほしいとは思っているんですが、当然そんなすぐには出てこないので、今は毎日泣きながら、泣きそうになりながら、脚本を書いています。いつか観ていただけるように頑張ります。「すずめの戸締まり」のパッケージも発売になりましたので、まだもうちょっとこちらを観ていただければと思います。

MC

最後に皆さんにご挨拶をお願いいたします。

花澤さん

皆さん、今日は来ていただいて本当にありがとうございました。これから、どういう形で――イヤホンをして観るのか、初めて観る方もいらっしゃいますし、いろんな方々がいろんな形で楽しんでいただければと思います。新海さんとこうして壇上でお話することができて良かったです。おばあちゃん役の言質を取ったので、ぜひ取材の方はその部分を書いてください!

新海監督

今回、改めて観に来てくださって、本当にどうもありがとうございます。上映前に長い時間しゃべってしまって疲れさせてしまったかもしれませんが、どうぞ力を抜いてリラックスして、この先の二時間を楽しんでください。僕は花澤さんとまさか「すずめの戸締まり」で一緒に壇上に立てる機会があるとは、想像していなかったので、とてもうれしい機会をいただきました。本当にどうもありがとうございました。また次の作品なのか、あるいは別の機会なのか、いろんなタイミングがあるでしょうから、皆さんと再会できるのを楽しみにしております。今日は本当にありがとうございました。