「きみの色」製作報告会

2024.03.18
  • イベント

製作報告会

「けいおん!」『映画 聲の形』などの山田尚子監督の最新アニメーション映画『きみの色』の製作報告会が3月18日、都内で開催されました。山田監督、川村元気プロデューサー、声の出演の鈴川紗由さん、髙石あかりさん、木戸大聖さんが出席し、本作に込めた思いや物語の魅力について語りました。こちらのイベントの模様をレポートいたします。

山田尚子監督

川村元気プロデューサー

日暮トツ子役

鈴川紗由さん

日暮トツ子役

作永きみ役

髙石あかりさん

作永きみ役

影平ルイ役

木戸大聖さん

影平ルイ役

山田監督

今日は大変な強風の中、お集まりいただき、ありがとうございます。
作品本編は1月末に完成しました。まずはスタッフの皆さん、お疲れさまでした。そして、これから本作に関わってくださる皆さん、どうぞ『きみの色』をよろしくお願いします。
皆さんに観ていただくのはまだ少し先になりますが、楽しみにお待ちいただければと思います。

川村プロデューサー

イベント冒頭で流れた映像は、世界で初めての映像です。本作は全世界のアニメーションファンのみならず、映画ファンが楽しみにしている山田尚子監督の新作となります。短い時間ですが、楽しんでいただければと思います。

MC

川村プロデューサー、世界中から注目を集める山田尚子監督の「きみの色」ですが、本作に懸ける意気込みをお聞かせください。

川村プロデューサー

まず、僕自身が山田尚子監督作品のファンで、「けいおん!」(2009年、2010年にテレビアニメ放送/劇場版が2011年公開)「たまこまーけっと」(2013年にテレビアニメ放送/劇場版が2014年公開)がすごく好きす。『映画 聲の形』(2016年公開)は度肝を抜かれ、『リズと青い鳥』(2018年公開)を観た後に新海誠監督から連絡があり「すごい映画ですね」と話していました。どの作品においても演出力がずば抜けていて驚かされました。
新海監督からは「山田尚子さん、最近どうなんですか?」とよく聞かれます。「嫉妬を感じる才能だ」とも言っていますし、僕もそれは感じています。国際映画祭で、海外の配給会社の方に「山田尚子の新作はまだか?」ってよく言われますね。世界中にファンがいる事を感じますし、僕自身が早く山田さんの新作を観たいという気持ちで、数年間、一緒に企画をやってきました。

MC

新海誠監督の「嫉妬を感じる才能」という言葉を聞いていかがですか?

山田監督

とんでもない話だと思いました(笑)。光栄です。頑張ります!

MC

今回、国内にとどまらず、すでに海外からも多くのラブコールを受けているとお伺いしました。

川村プロデューサー

210の国と地域での公開が予定されています。まだ完成品を観ていない状態で、これだけのグローバルセールスが決まるのは、ジブリ作品や新海作品並みだと思います。ここまで期待されている事実に僕も驚きました。

MC

世界中から注目されていますが、本作の着想の経緯を教えてください。

山田監督

映画に対しての尊敬があり、映画を作ることへの憧れを持っています。まず一番に「映画を観る方の映画体験を大事にしたい」と取り組みました。

MC

本作のテーマ、伝えたいことは何でしょうか?

山田監督

「観た方の気持ちに何か寄り添える映画を作りたい」という気持ちでやっています。

MC

本作を作る上で楽しかったこと、ご苦労されたことはどんなことでしたか?

山田監督

たくさんのスタッフと気持ちを一つにして、作品を作り上げていくという過程が、何度経験しても最高で楽しい瞬間だと思います。
苦労した点は、オリジナル作品なので、「作品の世界とか大事な部分を、スタッフと共有するためにどういう言葉を使って、どういう目線で話をしていこうか?」というところです。でも、結果的には、すごいパワーで、スタッフの皆さんが駆け抜けてくれました。

MC

川村プロデューサーは山田監督とご一緒されていかがでしたか?

川村プロデューサー

本作はサイエンスSARUという素晴らしいスタジオで制作され、スタートするタイミングで、優れたアニメーターの方々が自ら「山田監督と一緒に仕事がしたい」と集まってくれました。
本編のセリフとセリフの間だったり、「うれしい」「悲しい」といった感情がたくさん映っています。それは、映画館で集中して観ないと見落としてしまいそうな感情や色です。僕も横で見ていて「これが山田尚子なんだな」と納得しました。

MC

人が“色”で見えるというアイディアはどういうところから生まれたのでしょうか?

山田監督

「時間」と「色」と「動き」といった、何か言語化出来ない感覚的なものを受け取って帰ってもらえる映画にしたかったんです。主人公・日暮トツ子の世界の受け取め方がどんなものかと想像した時、感覚や触覚、そんなことを思って、「色で表現したい」と思いました。

MC

山田監督といえば「青春」というイメージも強いです。本作はどういった期待をさせていただけるんでしょうか?

山田監督

まさに「音楽」です。「音楽体験」です。

川村プロデューサー

補足すると、十代の子たちの言語化できない感覚を描くのが日本一うまい監督だと思っています。それから、山田尚子ファンは「けいおん!」だったり、(山田さんの)音楽の演出がとても好きだと思います。本作はその二つが両方ともが入っている贅沢な山田フィルムであると一ファンとして思います。

■声の出演の鈴川さん、髙石さん、木戸さんが登場。

鈴川さん

こういう場が初めてなので緊張しています。楽しんでお話ができたらと思います。

髙石さん

オーディションから始まり、やっとこの日が来てすごくうれしいです。この作品のことを多くの方に知っていただけるように、本日はよろしくお願いします。

木戸さん

今日の製作報告会で、作品の魅力を少しでもお伝えできたらと思います。

MC

お三方は、オーディションで決まったということですが、まずは監督に、キャスティングの決め手と声の印象などをお聞きしたいと思います。

山田監督

トツ子役の鈴川さんの決め手は、「独り言がかわいかった」です(笑)。覚えているかな…? テープオーディションで、トツ子が猫に話しかけるシーンがありました。鈴川さんが演じたトツ子は、自分の中だけですごく楽しんでいる子――その自分の中の世界がすごく幸せそうな子でした。そこで、ひとめぼれというか、ひと耳ぼれのような感じでした。オーディションで実際にお会いしたらトツ子にしか見えなかったです。
髙石さんは、オーディションの時に、午前中のすごく早い時間なのに、2リットルの水がもう空の状態で持ってきました。「すごく飲むんですね」って言ったのを覚えています(笑)。そこから、あふれる不思議な魅力のとりこになりました。実際に声を聴いたら、耳にこびりつくような不思議な音をしていて、すごく心地良くて、そこに魅力を感じて決めました。たくさん歌も歌ってもらいました。
ルイくんの木戸さんは、持っている雰囲気の柔らかさ――セリフだけではなく、普通にお話する時のトーンや色味が、私が想像する影平ルイくんにぴったりきていたので、「木戸さんで!」という感じでした。

木戸さん

ありがとうございます。

MC

1600名の中からオーディションで選ばれた時のお気持ちはいかがでしたか?

鈴川さん

私は、事務所の方からサプライズで教えてもらいました。最初に聞いた時は「うれしい」という感情がなくて、信じられなくて、頭が真っ白になって涙が止まりませんでした。声優のお仕事が、ずっとやりたいと思っていた目標の一つだったので、結果がくるまでごはんが喉を通らず緊張していました(笑)。

髙石さん

私も、オーディションの期間が意外と長かったので、一日、一日が不安で、「受かる」とは想像もしていなかったので、聞いた時はびっくりしました。何度も繰り返しシーンを見るくらい山田監督の作品が好きなので、その最新作に出演できるのことがうれしくて、頭が真っ白でした(笑)。

木戸さん

お二人と同じで、監督の作品に出られる喜びが押し寄せてきました。それと同時に、長い時間をかけて監督や川村さんが準備しているアニメに声を入れるというのは、魂を注ぎ宿らせることだと思いますし、僕も声の仕事は初めてなので、正直、「自分で大丈夫かな?」という不安とプレッシャーもありました。

MC

改めてこの作品の魅力をどのように感じていますか?

鈴川さん

誰もが経験する、思春期ならではの悩みや、抱えている思いを、三人が出会って、音楽活動を通して心を通わせて成長していく、その姿にとても勇気をもらえる作品です。私も共感できる部分がたくさんありました。三人の日常をのぞき見しているような感覚で、とてもほっこり癒してくれる作品だと思います。

髙石さん

映像美が本当にすごくて、監督が描く線の一つ一つに、ものすごいこだわりを感じます。まつげ一本一本の普通の動き、人がときめいた瞬間、そういうところの描き方が本当に魅力的でキラキラしているんです。「私があの時、ときめいた感情は映像にするとこんなにキレイなんだ!」と思える素敵な映像作品になっていると思いました。

木戸さん

思春期の人たちが持つ悩みは、だれしも経験があって、今まさに、その悩みに向き合っている人もいると思います。主人公三人の設定が10代なので、きっと誰しもが共感できる作品だと思います。出会いがあって、感情の変化が起きる。今回だと音楽や色でそれが表現されています。その繊細さが『きみの色』の大きな魅力かなと思っています。

山田監督

くすぐったかったです(笑)。ありがとうございます。

MC

アフレコは三人で一緒に収録もされたんですか?

髙石さん

はい、三人で…。

鈴川さん

一緒に録りました。

髙石さん

声を当てるお仕事は、数日だけなんですが、その中でも仲を深められたと思います。

鈴川さん

髙石さんは、最初クールな方かと思っていました。でも、たくさんお話をしてくれました。すごく笑い声が素敵で、パワフルで、一緒にいて楽しいです。
木戸さんは、すごく穏やかな雰囲気をまとっていて、安心感があるお兄さん的な存在でした。

髙石さん

紗由ちゃんって、本当にトツ子みたいで、見ていると引き込まれちゃうような魅力的な方です。でも、芯があって役について考えている時はカッコ良いと思いました。
木戸さんは、年は離れているんですが、私たちにも優しくて、すごく低姿勢というか、柔らかい雰囲気がルイくんにピッタリだと思いました。それから、声が想像と全然違って、ルイくんそのまんまで、驚きでした。

木戸さん

(二人のコメントが)すごく気持ち良いですね(笑)。うれしいです。僕がいまだに覚えていることは、紗由ちゃんのことで、「そこのイスにトツ子が座っている」という印象がすごくありました。緊張していて、トツ子が一人で「ウーっ」ってなっているところが、オーディションの時の紗由ちゃんと同じで、声もかわいらしくてピッタリだと思いました。
あかりちゃんは、三人で録っている時、すごく明るくて、現場を和ませてくれる感じがありました。その上、きみちゃんとしての力強い声もピッタリで、一緒に録っている時のほうが、ルイをやりやすかった印象があります。

MC

山田監督の印象はいかがでしたか?

鈴川さん

最初は写真でしか見たことがなかったので、クールな方だと思いました。でも、実際は関西弁がかわいくて…(笑)。私も関西なので親近感がありました。穏やかな雰囲気をまとっていて、初めてのアフレコで緊張していたんですが、リラックスして臨むことができました。

髙石さん

本当に柔らかい方で、「心で会話してくださる方」だと思いました。役のこと、作品のことについて話す時、分かりやすくではなく、自分の気持ちをそのまま伝えてくださるのが一番刺さりました。より良いものを監督に見せたい気持が強くなったし、そんな監督が作る作品は絶対に素敵なんだろうと思いました。でも、人見知りで(笑)、かわいい方だと思いました。

木戸さん

初めて三人一緒にお会いした時、監督が一番緊張されていました(笑)。それを見た時に「監督も緊張するんだ」と思って、逆に僕らはリラックスできました。僕らと同じ目線でいてくれる優しい監督で、でも作品への情熱も伝わってきて、「頑張ろう」と思わせてくれる監督でした。

MC

川村さんはプロデューサーとして、三人のこれからに期待されることはどんなことですか?

川村プロデューサー

アニメーションの声を探す時は、毎回とてつもないオーディションになるんです。何が正解か分からないし、なるべく新しい声に出会いたいと思っています。なので、今回は、1600人――聞くだけで途方に暮れました。延々と声だけを数日間聞いた結果、この三人が唯一無二の声だと思いました。ここで出会った方々が、アニメーションに限らず実写映画でも、将来映画界を必ず背負ってくれる人だと信じています。また一緒に仕事をしたいと思っています。声の良い俳優は売れる――その条件が揃った三人であり、更にはオンリーワンの声を持っているので、この映画のみならずどんどん活躍していってほしいと思っています。

MC

今回、劇中歌もあります。

山田監督

「水金地火木土天アーメン」という、トツ子ちゃんが作詞作曲した歌で、きみちゃんとルイくんと三人で編曲したバンドの曲です。

MC

牛尾憲輔さんと一緒に作られたそうですね?

山田監督

今回、音楽を牛尾憲輔さんにお願いしました。「バンド曲に挑戦しましょう」ということで、音楽を牛尾さんが作って、歌詞はトツ子やきみちゃん、ルイくんが書くという風にやっています。一番大事にしたのは、この三人が演奏している楽曲だということですね。とても難しい展開があったり、すごく練習が必要なのではなく、一生懸命練習したら弾けるもの――でも熱があって、かわいらしくて、この時期に彼女たちが作ったことに納得できる曲であることを大切にしました。

MC

ボーカルを髙石さん、コーラスを鈴川さんが担当されていますが、この楽曲の印象をお聞かせください。

鈴川さん

さっき流れていた曲はトツ子からきみちゃんへの思いがたくさん詰め込まれた曲ですが、歌詞がトツ子らしくて、言葉選びがチャーミングでかわいらしいので、音楽もつい鼻歌で口ずさんでしまう中毒性がある楽曲だと思います。

髙石さん

本当にチャーミングでポップで踊り出したくなるような曲です。でも、その曲が劇中で流れた時に、私は涙を流したんです。思い入れがあるからっていうのはもちろんですが、一つ一つの物語を経て、たどり着いたその一曲が本当に美しかったんです。それを皆さんにも体感していただきたいです。

木戸さん

二人があの曲を収録していた時、僕はいなかったので、僕は本編を観て初めて二人のあの歌を聞きました。本当に鳥肌が止まらないというか、ワクワク感、イントロから何かが始まりそうなキャッチーな部分を覚えています。観終わった後も帰り道に口ずさんでしまうような、すごく素敵な曲だと思いました。

MC

映画は本当に音楽が大切ですね。

川村プロデューサー

山田監督が「バンドものにする」と言った時、僕はうれしかったですね。「山田監督のバンドものを観たいな」と思っていたし、しかも、この三人が演奏して、アニメのキャラクターなのに、試写室から三人が出てきたんじゃないかって思うようなバンドのグルーヴ感がありました。「あぁ、音楽映画になった」という思いがありました。

MC

そして三人を導くキーキャラクターのシスター日吉子は新垣結衣さんが声を当てています。新垣さんよりコメントをお預かりしていますので、代読いたします。

【新垣結衣さんコメント】

完成した作品を観た時、すべてが柔らかくて繊細で心に春色の風がそよぐような優しい気持ちが画面からあふれていると感じがしました。
トツ子、きみ、ルイは個性豊かで本当に愛らしくて、試写の後に、鈴川さん、髙石さん、木戸さんと顔を合わせた時には、まるで物語の中の三人に会ったような気持ちになって高揚してしまいました。
ご本人たちが並んでいる感じも、何だか役にピッタリな感じがします。
シスター日吉子は、物語の登場人物の中では、大人たちとトツ子たちの間にいる人だと監督から説明をいただきました。トツ子たちに対して、他の大人たちよりも一つ距離が近いというか、静かに、でも熱くいや実はかなり熱くトツ子たちを見守っている人です。
気持ちを分かりやすくストレートに表すセリフはあまりない印象だったので、日吉子が何か言葉を呑み込んだ時の、その奥の気持ちはどんなものかと想像するのもとてもやりがいのある作業でした。
アフレコ本番は、山田監督と音響監督の木村さんをはじめ、スタッフの皆さんに、長い時間、大変根気強く、付き合っていただき、支えていただきました。この場を借りて、改めて本当にありがとうございました。
ぜひたくさんの方に観ていただきたい作品です。

MC

山田監督、お聞きになられていいかがでしたか?

山田監督

感無量です。私自身、新垣さんのことはテレビや映画、スクリーンを通してしか知らなかったんです。勝手な思い込みかもしれませんが、きっと芯が強くて、こだわりもあって、ものすごくぶっきらぼうなくらい真面目な方なんじゃないかと思っていました。それに、シャレっ気もあって、すごくチャーミングな方だと思っていたので、今回のシスターに日吉子にピッタリだと思いました。ダメ元でアタックしてみましたが、まさかお受けいただけると思っていませんでした。

MC

実際にご一緒されていかがでしたか?

山田監督

素晴らしかったです。物語の一つは、シスターの話といっても良いかもしれないです。作品を編み込んでくださるような役目で、その役割をすごく真面目に受け取ってくださいました。セリフの一つ一つ、ちょっとしたイントネーションの違いもとても大切にしてくださって、いろんな日吉子を見せていただきました。ものすごく感激しました。

MC

最後に山田監督からメッセージをお願いします。

山田監督

『きみの色』はオリジナル作品ですが、観てくださった方の今までや、これからあるかもしれないことなど、きっとどこか触れることができる作品だと思います。そして、何より劇場で「映画体験」をしていただくことを大切に思って作った作品なので、ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います。