「怪物」完成披露試写会

2023.05.08
  • 完成披露

完成披露試写会

第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された本作「怪物」は、登場人物それぞれの視線を通した”怪物”探しの果てを描くヒューマンドラマ。音楽は、坂本龍一さんが担当している奇跡のコラボレーション作品です。
5月8日、「万引き家族」(2018年公開)で第71回カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)に輝いた、是枝裕和監督の最新作「怪物」の完成披露試写会がTOHOシネマズ 六本木ヒルズにて行われ、主演の安藤サクラさん、永山瑛太さん、黒川想矢さん、柊木陽太さんをはじめ、高畑充希さん、中村獅童さん、そして脚本の坂元裕二さん、是枝監督が登壇しました。こちらのイベントの様子を詳しくレポートします。

麦野早織役

安藤サクラさん

麦野早織役

保利道敏役

永山瑛太さん

保利道敏役

麦野 湊役

黒川想矢さん

麦野 湊役

星川依里役

柊木陽太さん

星川依里役

鈴村広奈役

高畑充希さん

鈴村広奈役

星川清高役

中村獅童さん

星川清高役

脚本

坂元裕二さん

脚本

是枝裕和監督

MC

怪物の仲間たちに今一度、大きな拍手をお願いします。

安藤さん

今ここに登壇して、MCさんが「怪物の仲間たちに」とおっしゃった言葉でグッときて、二人(=子どもたち)を見ていたら泣きそうになりました。

永山さん

よろしくお願いします。

黒川さん

今ここに立てていることがとても嬉しいです。

柊木さん

初めての舞台挨拶でとても緊張しています。僕は「怪物」という作品に関われたことを嬉しく思っています。

高畑さん

今日は、スクリーンで観ていた二人に会えて、感激しております。

中村さん

是枝組に参加することが長年の夢だったので、こういった場所に立たせてもらえたことをとても嬉しく思っております。

坂元さん

本日は、お越しくださりありがとうございます。

是枝監督

本当に素晴らしいスタッフとキャストと一緒だから出来た作品だと思っています。

MC

「怪物」は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門への正式出品作に選ばれました!(会場:拍手)
是枝監督、「万引き家族」の受賞が記憶に新しいですが、再びコンペティションに選ばれました。今はどのようなお気持ちでしょうか。

是枝監督

とても光栄です。昨年の段階で、映画の公開初日が6月2日に決まっていました。カンヌ出品はそんなに簡単なことではないため、すごく心配でした。「もうちょっと先に延ばした方が良いのでは?」という話をずっとしていました。結果的に、(カンヌ国際映画祭に)良いかたちで参加できることになり、ホッとしています。(現地に赴くことが)楽しみです。現地に行く方とそうではない方がいらっしゃるので、参加した人で皆さんの分まで楽しんできます。

MC

本作の始まりはこれまでとは異なり、企画の始まりが是枝監督ではなく、脚本の坂元さんだったということですね。坂元さん、監督が是枝さんに決まった時のことをお話しください。

坂元さん

是枝監督が引き受けてくださった時は正直驚きました。長いキャリアの中で、映画監督としても評価されていて、基本はご自身で脚本を書かれている方なので…。脚本家としての是枝裕和も素晴らしいのにもかかわらず「僕の脚本で良いのだろうか」という不安を抱えた状態で、監督とお会いしました。

MC

脚本はすでに書いてあったということでよろしいのでしょうか。

坂元さん

そうですね、今のお話は時系列がおかしくなっていました。本作のプロットがありまして、その段階で是枝監督がOKをくださいました。

MC

是枝監督は、長編デビュー作(「幻の光」1995年公開/脚本:荻田芳久/出演:江角マキコ)だけがご自身の脚本ではないですよね。以降の全作品は脚本をご自身で手がけられてきました。そこに映画作りのこだわりがあると思っていたのですが……。「坂元さんの脚本で映画を撮ろう!」と思われたのは何か心境の変化があったのでしょうか。

是枝監督

自分で脚本を書かないのであれば、坂元さんにお願いしたいと思っていました。何度か坂元さんと対談で直接お話をして…、ずっと僕からラブコールを送っていました。それで(今作で)声をかけてくれたのだと思っています。最初は、プロデューサーの川村元気さんから、「開発しているプロットがあるので読んでくれないか?」という連絡をいただきました。その時、僕はプロットを読む前なのに、引き受けることを決めていました。「どのような内容であれ、引き受けてチャレンジしてみよう!」と思いました。それぐらい、このタッグの実現に憧れていました。

MC

キャストの方々にもお話を伺います。安藤さんは「万引き家族」以来、二度目の是枝組になりますが、出演依頼を受けていかがでしたか。

安藤さん

引き受けたのは、コロナ禍前なので、それこそ「万引き家族」に出演してからそれほど時間が空いていなかったと思います。ですから、監督から再びお声がけいただけるとは思っていませんでした。だから、ものすごく嬉しい反面、監督の現場にすぐ戻ること、坂元さんの脚本であることは、私にはものすごく敷居が高いように思えて、かなり長いこと怖じ気づいてなかなか覚悟を決められませんでした。でも、現場に参加して、完成した作品をスクリーンで観た時に、その時の自分を”一発殴りたい”気持ちになりました。自分の想像をはるかに超える作品に参加できたこと本当に嬉しく思っています。本作に参加した一員というよりは、作品を観た一人として、本作に感動して涙が止まりませんでした。

MC

永山さんは、初めての是枝組ですが、坂元脚本の作品には欠かせない存在の一人でいらっしゃいます。今回は、いかがでしたか。

永山さん

坂元さんとは、二十代の前半からいろいろお付き合いさせてもらい、数々の素晴らしい脚本を書いてもらいました。僕が俳優を続けている限り、一生お付き合いしたいと思っております。
是枝さんは、僕が俳優を初めてから、自分なりに「この人が日本映画を変えていくのだろう」と感じて、全作品を拝見してきました。そのお二人の座組に自分が入れたことを幸せに感じています。それだけで幸せなので、内容や役柄、出番がどうとか、どういうお芝居をしようかとか、もうそういうことではないです。

MC

映画の中では小学校五年生を演じた黒川さんと柊木さんですが、黒川さんは、撮影時は何年生でしたか?

黒川さん

小学校五年生?

MC

役柄と同じ?

安藤さん

今は何年生なの?

黒川さん

(撮影の時は)六年生か……?

永山さん

今は中学二年生でしょ?

安藤さん

だって、撮影中に進学していたよ。私が「入学式どうだった?」って聞いて、(黒川さんが)入学式に行った話をしてくれたことを覚えているもん!

是枝監督

僕が会ったのは小六で、撮影時は中学二年生かな。

永山さん

撮影の春編を撮っている時が小学校六年生で、夏編の撮影は中学校一年生だったね。

安藤さん

だからオーディションを受けた時が小学校五年生だったんじゃない? ……あ、違う?

MC

(笑)。柊木くんは何年生でしたか?

柊木さん

僕は(小学校)五年生です。

MC

黒川さん、撮影ではどのようなことを覚えていますか。

黒川さん

監督が、カフェカーを何回か差し入れしてくれました。その時に、マシュマロとイチゴを串刺しにしたかわいいお菓子を両手にこうやって持って、みんなのところに「これ、いる?」って配っていたことが、楽しい思い出です。(会場:ほっこりして笑う)

MC

柊木さんは、どのような思い出がありますか。

柊木さん

撮影期間中に、安藤さんや黒川くんたちと花火を見に行って、すごくキレイで楽しかったです。

MC

監督、お二人をオーディションで選んだ時のことを教えてください。

是枝監督

オーディションはたいがい、いろいろなことをお話します。決める時は、直感なんです。「この子と時間をかけて作品を作る!」という覚悟ができたらそれだけです。黒川くんは横顔が良かった。柊木くんは役にぴったりで会った瞬間に「(役柄の)依里くんが来た!」と思いました。

MC

坂元さんもオーディションにいたのですか?

坂元さん

はい、一度。お二人とも初めて拝見した時から、素晴らしいお芝居をされていました。
この物語は、僕自身の子どもの頃の体験を基にしているところもあって、黒川くんが僕の立場の役なので恐縮です。柊木くんは、転校してきた依里くんに似ていました。もしかしたら「似ている!」と思い込んでいるだけなのかもしれないですが……。伝わっていますか?

MC

はい、分かります。役柄が投影できるお二人だったんですね。

坂元さん

そうです。

MC

安藤さんはお母さん役、永山さんは担任の先生役ですが、現場での二人はいかがでしたか。

安藤さん

私自身、それに是枝組のチームのみんなは、二人のことを子どもにカテゴライズ(分類)していなくて、一緒に作品を作る同志として、いろいろと話し合いをしました。お二人はお芝居のタイプが違うので、毎回刺激を受けていました。それがとても楽しかったです。出来上がった作品を観た時に、ずっと一緒にいたのに、想像をはるかに超えた姿の二人が映っていました。とても感動しました。

MC

黒川さん、とても難しい役だと思います。お芝居をしていてどうでしたか。

黒川さん

お芝居をしている時は、あまり考えていなくて……。ただ、カットがかかっても、なかなか湊くんから自分自身に戻ることができなくて、苦しくなったり、悲しくなったりすることがありました。でも、とても楽しかったです。

MC

辛い時は誰かに相談しましたか?

黒川さん

相談は……しなかったです。

MC

永山さんに相談したんじゃなかった?

黒川さん

永山さんに相談したのではなくて、初めての休日に、永山さんからドライブに誘ってもらいました。その時に「自分がどう演技するかではなくて、役者は監督の脳みその中にあるものを表現するんだよ」と教えていただきました。それが響きました。

永山さん

想矢は、作品に対する愛が深くて、自分のお芝居を掘り下げたいという気持ちを抱えていました。だから、撮影場所の近くにある諏訪湖で散歩をしながら話をして、「お肉が食べたい」というので焼き肉店に連れて行きました。でも、それがジンギスカンのお店で、「ジンギスカンは食べたことがない」と言っていたのに、無理矢理食べさせて悪かったなと思っています。でも、生まれて初めての瞬間にいられたことが、僕としては嬉しかったです。

MC

獅童さんは、柊木さんのお父さん役です。現場の柊木さんはどうでしたか。

中村さん

クランクイン前の本読みの段階で、役に入っていて、お二人とも素晴らしかったです。普段とのギャップがあまりなくて、子どもが演技をしているというよりは、自然体の少年がそこにいる感じですごかったです。

MC

柊木さんは、お芝居に悩むことはありましたか。

柊木さん

特に悩まなかったです。

MC

高畑さん、初めての是枝組はいかがでしたか。

高畑さん

初めての是枝組だったのですごくワクワクして、インするのがすごく楽しみでした。私の参加は三日ぐらいで、その初日が皆さんのクランクインと重なったので急に緊張して……。永山さんとも初めてで、とにかく緊張してセリフ以外、何を話したか覚えていないぐらいでした。現場に入ると是枝さんが温かく見守ってくださっている感じがして、じんわり温かい気持ちになるなあと思っていたらあっという間に三日間が終わってしまって寂しかったです。

MC

中村獅童さんは、是枝組はどうでしたか。

中村さん

僕は、2015年だと思うのですが「海街diary」(2015年公開/出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず)という作品が公開された当時は鎌倉に住んでいて、妻と散歩をして大船の映画館で上映していることを知りました。よく観たら、上映後に是枝監督のティーチインがあることが分かり「絶対に行こう!」と……。元々僕は是枝監督のファンなので、「何とか作品に起用してもらいたい」と思って、映画館のスクリーン脇の扉から裏へ入って、楽屋の前で待ち伏せをしました。何の約束もしていなかったのに、監督は「どうした?」って普通に会話をしてくれました。「いつか僕を使ってください」とお願いをして、それっきりでしたね。「やっぱり僕みたいな役者は、お好きじゃないんだろうな」と思っていました。でも、「想いって叶う」と思えたのが、2020年。コロナ禍の大変な最中に、緊急事態宣言でずっと家にいて、家族と「自分は50歳で死ぬまでの間に是枝監督の作品に出られたら良いな」という話をしていたら、その数カ月後に本作のご連絡をいただきました。

MC

是枝監督、本作は念願叶って、坂本龍一さんの音楽が使われております。どのようにご依頼されて、どういったやりとりがあったのか等を教えてください。

是枝監督

撮影場所が”諏訪”に決まって、脚本の風景が明確になったので、「この夜の湖に龍一さんのピアノが響くと良いな」と思いました。撮影中も仮で音楽を当てて撮っていました。

MC

それは許可が出る前に、ですか?

是枝監督

はい。それで撮影を終えた段階で、仮編集をして仮の音楽を入れたものと手紙を書いて、坂本龍一さんに送りました。坂本さんの体調のこともあったので、「断られたら諦めよう」と思っていました。でも、すぐに観ていただいたようで「(映画は)面白かった。全部を引き受ける体力は残っていないけれども、音楽のイメージが何曲か浮かんでいるので、形にしてみますから、気に入ったら使ってください」というお手紙が届きました。

MC

何曲作っていただいたのですか?

是枝監督

二曲作っていただきました。「そのほかの曲は、すでに発表している曲を使ってかまわない」ということでしたので、昨年発表されたアルバム「12」の楽曲を何曲か、(仮編集の映像に)仮当てした楽曲も使わせてもらっています。それで整えて、もう一度送らせていただいて、了解をいただく…というやりとりを何度かしました。

MC

坂本龍一さんに音楽をつけてもらえたお気持ちは?

是枝監督

亡くなられたことが本当に残念です。最後にこういうかたちでご一緒できたことは、自分にとって誇りです。自分にとって以上に、この作品にとって坂本龍一さんの音楽が必要だったと、出来上がった作品を観ると、誰よりも強く感じています。本作に当てた曲だけでなく、「12」の楽曲も……言い方が難しいのですが、「まるで本作のために作った」かのように思えるほど、とても映像とマッチしています。まるで作品の中から聞こえてくる音のようで、不思議な気持ちを抱いています。本当に感謝しています。

MC

冒頭にご紹介しましたが、カンヌ国際映画祭は来週からです。皆さん、渡仏されると伺っているのですが……。大変申し訳ないのですが、行く予定のない方はどなたですか。

■高畑充希さんと中村獅童さんが挙手。

MC

どんなお気持ちですか。

高畑さん

どんな気持ち? ……悲しいです。テレビで見ます!

中村さん

そうですね、悔しいですね。だけど、この前撮影したもう一本の作品(=北野武監督の「首」)で、「カンヌに行きましょう!」と声をかけてくださったので、カンヌには行けるみたいです!

高畑さん

行けないのは私だけですね(笑)。テレビの前で応援します!

MC

安藤さん、カンヌに行くお気持ちは?

安藤さん

以前監督にカンヌに連れて行っていただいた時は、初めてのカンヌだったことと、私が朝ドラ(連続テレビ小説「まんぷく」2018年10月~2019年3月にNHKで放送されたドラマ)を撮影していた時期だったので、バタバタしていて「これがカンヌか」って感じで、すぐに帰ってきました。なので今度はしっかり、じっくりいろいろなことを味わおうと、ワクワクしています。

MC

永山さんは初カンヌですか?

永山さん

一応、二度目(2011年公開の三池監督作品「一命」で第64回カンヌ国際映画祭に参加)です。一生のうちに何度も行ける場所ではないので、堪能したいと思います。

MC

最後に、坂元さんと監督にご挨拶をいただきます。

坂元さん

本日は、お越しくださいまして、ありがとうございます。自分自身のこれまで生きてきた、主に子ども時代の体験を思い出しながら、辛いこともありましたが、心を込めて書きました。何か皆さんの心に届くモノがあったら良いなと思います。

是枝監督

自分が監督をしているかどうかは置いておいて、本当に特別なものがいろいろと映った作品になったと思います。スタッフが完成した本作を観て、「すべての人が良い仕事をしていますね」と言ってくれたのが、本当に嬉しいです。自分は、「是枝組」と呼ばれることがあまり好きではありません。映画を作りながらスタッフもキャストも少しずつ変わってはいるんです。今回も良いチームで、本当に素晴らしい作品が出来たので、楽しんでください。