「ドールハウス」 第45回ポルト国際映画祭 凱旋報告会
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第45回ポルト国際映画祭 凱旋報告会
矢口史靖監督が原案・脚本・監督を務めた「ドールハウス」が、6月16日より公開となります。本作は、ある家族が人形に翻弄されていくスリルと、人形に隠された秘密が解き明かされる謎解きミステリーの面白さもあり、息もつかせぬストーリー展開の“ドールミステリー”となっています。
また、世界三大ファンタスティック映画祭の一つ、第45回ポルト国際映画祭で最高賞のグランプリ「Best Film Award」を受賞し、4月5日には凱旋報告会を東京ポートシティ竹芝にて開催しました。イベントには、主演の長澤まさみさんと矢口史靖監督が登壇して、受賞の喜びを含めて、本作について語りました。こちらのイベントの様子を詳しくレポートします。
長澤まさみさん
鈴木佳恵役
矢口史靖監督
■長澤さんは、本作に登場する謎の人形“アヤちゃん”を抱いて登場し、矢口監督は、ポルト国際映画祭でいただいたトロフィーを持って登場しました。
長澤さん
今日は本作をたくさんの方に知ってもらいたいなと思っております。
矢口監督
僕は、これまではどちらかと言うとハッピーなコメディ作品をたくさん撮ってきたんですが、今回は真逆の作品です。背筋が凍るようなゾクゾクする物語を初めて作りました。手ごたえはバッチリです。
MC
本作は、先日ポルトガルで行われた第45回ポルト国際映画祭にて、最高賞のグランプを受賞しました。そして、すでに世界20カ国での上映も決定しております。監督が今お持ちになっているのが、ポルト国際映画祭のトロフィーですか?
矢口監督
はい。ポルト国際映画祭は、ファンタスティック映画祭という、不思議なことや恐ろしいものなどを題材にした、普通のことが起きない作品を集めた映画祭です。並みいる強敵の中で本作がグランプリを取りました。(会場のお客さん:拍手)
MC
映画祭で本作をご覧になった皆さんの反応はいかがでしたか?
矢口監督
初めて観る一般の方が外国のお客さんだったので、僕も緊張しました。でも、こっちが驚くほど反応が良くて、席から立ち上がってびっくりする人もいて、「そこまで驚くのか!」って思いました。日本人のお客さんより反応が派手だという覚悟はしていたんですが、それを見て、つい「これはいける!」と有頂天になりました。
MC
五分間に渡るスタンディングオベーションもあったとうかがいました。
矢口監督
そうですね。なので、最後は僕がアヤちゃんを掲げました。お客さんの前にアヤちゃんを差し出したくて(笑)。…バカ受けでした。
長澤さん
(笑)。アヤちゃんは大人気でしたね。アヤちゃんは本当にかわいくて、共演してみると、毎日アヤちゃんの表情が変わっていくんです。そばで見ていると愛らしいし、人に好かれるタイプだと思いました。すごく魅力的で、人を惹きつけてしまう何かを持っていると思います。
矢口監督
だから、あんな目に遭ったんですよ! …と言っても、本作を観てもらわないと分からないですよね。
MC
長澤さんは、本作がグランプリを取ったことを聞いて、どう思われましたか?
長澤さん
ポルト国際映画祭では「アイアムアヒーロー」(2016年公開/監督:佐藤信介・主演:大泉洋)という作品で、賞(観客賞とオリエンタルエキスプレス特別賞)をいただいたことがありました。でも、今回はグランプリをいただいて「あぁ、うれしいな~」と思いました。またポルト国際映画祭でたくさんの方に作品を観てもらえてうれしいです。トロフィーは初めて見ました。
矢口監督
僕も初めて見た時はうれしかったです。
長澤さん
トロフィーは手作りだそうですよ! そういうアットホームな映画祭で作品を受け入れてもらって、さらに認めていただいたことによって、「日本の皆さんにも楽しんでもらえるんじゃないかな」という自信がつきました。
MC
本作は今後、香港国際映画祭と、イタリアで行われるウーディネ・ファーイースト映画祭への出品も決定しております。監督は、アヤちゃんと一緒に香港とイタリアに行かれる予定ですか?
矢口監督
アヤちゃんも飛行機の座席に座らせて行ってまいります!
長澤さん
お膝の上じゃないんですか?
矢口監督
膝じゃないです…何か起きそうですから(笑)!
MC
監督は、アヤちゃんとポルトの街を観光したとうかがいました。
矢口監督
「あちこち見たい」と言うものですからね。せっかくアヤちゃんを連れて行ったので、ベビーカーに乗せて、街を練り歩いてみました。本作のことを全く知らない観光客の皆さんが、アヤちゃんに気がついて、「これはやばいぞ」という雰囲気になって、写真を撮られることもありました。本作の宣伝には全く関係ないですが、ウケていたと思います。
MC
世界のどこかでバズっている可能性がありますね!
矢口監督
「あいつは誰なんだ?」って、バズっているかもしれません(笑)。(長澤さん:笑)
MC
香港やイタリアでも、お客さんの反応が楽しみですね。
矢口監督
そうですね。日本のお客さんにも早く観てもらいたいです。でも、弾みをつけるためにいろいろな国のお客さんをまずはゾクゾクさせたいと思います。
MC
矢口監督は、今回脚本、監督だけでなく、原案としても名前がクレジットされています。このミステリアスな物語のきっかけについて教えてください。
矢口監督
最初にこのストーリーを目にしたのは、“カタギリくん”という新人脚本家が僕に脚本を見せてくれた時でした。それがすこぶる面白くて、ゾクゾクしつつ、ワクワクする感じがしたんです。先の展開が気になって仕方がないストーリーでした。「これは面白いから映画にできないかな?」と、プロデューサーに連絡したところ、「これはいける!」とすぐに返事が来ました。トントン拍子に話が進んで、「誰に演じてもらおうか?」などと話していたのですが、ある時プロデューサーから「“カタギリ”という脚本家をいくら検索しても、仲間や他の人に聞いても、誰も知らない。これは誰なんだ?」と聞かれたんです。どんどん追い詰められて、ついに「“カタギリ”は僕です」と嘘をついていたことを白状しました。そこから“カタギリ”はいなくなり、僕が監督をすることになりました。
MC
普通に考えれば、矢口監督が「自分が書いた」と言った方が、企画が通りやすいように思うのですが…?
長澤さん
私もそう思います。何で、そんなことをしたんですか?
矢口監督
(真剣に)いや、その方が良いと思ったんです。
最初のご挨拶でもお話しましたが、僕はずっとコメディや、ハッピーな作品、お客さんを幸せにするような作品ばかりを作ってきました。なので、いきなり本作のようなゾクゾクする作品を公開したら、お客さんがドン引きするんじゃないかと思ったんです。僕は「人でなしだ!」と思われたくなかったし、嫌われるのが嫌でした。だから、「“誰かが作った作品”にできないかな?」と思ったんです。「脚本も撮影現場もカタギリさんがまとめて、舞台挨拶に立つのもカタギリさんで何とかできませんか?」と、プロデューサーに相談したところ、「できるわけないだろ!」と怒られて、この場に立っています(笑)。
MC
長澤さん、監督は相当変わっている方なんでしょうか?
長澤さん
いえ、サプライズがお好きな方なんです。
矢口監督
わざとじゃないですよ! 本気でカタギリさんにやってもらおうと思っていました。ただ、現場に行ったら顔を見られてしまうし、長澤さんとは、以前お仕事をご一緒しているので、すぐに「カタギリさんじゃない」とバレてしまうんですよね。まぁ、しょうがないんですけれどね。
長澤さん
(笑)。でも、そんなことがあったなんて、初めて知りました。カタギリさん、今日からよろしくお願いします!
矢口監督
では、今日から「カタギリさん」として、よろしくお願いします。
MC
主演を長澤さんに決められた経緯についても教えてください。
矢口監督
シナリオを書き終えて、「キャストは誰が良いか?」という話になった時に、僕から「長澤まさみさんはどうでしょうか?」と言いました。長澤さんには、以前「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」(2014年公開/主演:染谷将太)という林業を題材にした作品に出演してもらいましたが、その時はちょっと出番が少ない役でした。「次はがっつりやりたい!」と思っていたので、「今回は主演でお願いしたい」とプロデューサーに伝えました。
それで、長澤さんに脚本を読んでもらったら、すぐに返事が来て、「出たい」と言ってもらえました。そこからのスピードは早かったです。こんなに企画が決まるのが早い作品は初めてでした。
長澤さん
そうなんですか?
矢口監督
そうなんですよ!
長澤さん
へぇ~!
MC
長澤さんは、脚本を読んでどう思われましたか?
長澤さん
ストーリーの展開の速さ、スピード感にのめり込んでしまいました。「この作品はどこまでいくんだ!」という感じで、心をつかまれてしまいました。監督もおっしゃったように、「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」でお世話になりましたが、撮影日数が少なくて、「もっと監督と一緒にお仕事がしたかったな」という思いがありました。だから、また監督と一緒にお仕事ができるなら、ぜひこの役を演じてみたいと思いました。
MC
今までの矢口監督作品と作風が異なることは気になりませんでしたか?
長澤さん
意外だとは思いましたが、「どういうことなんだろう?」と思って、余計に気になりました。矢口監督が、ゾクゾクする物語をどうやって作るのかを、見てみたかったんだと思います。なので、カタギリさんではなくて、矢口監督で良かったです。
矢口監督
ありがとうございます!
MC
矢口監督にとって、長澤さんはどういう俳優さんですか?
矢口監督
「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」では、淡い恋愛の気持ちを寄せられる田舎に住んでいる女の子という役で、想いに素直に答えられない微妙な様を演じてもらいました。
長澤さんは、そういう感情の細かい表現もできるし、ド派手な笑いのシーンもできたので、「何でもいける」とその現場で分かったんです。なので、今回の佳恵役は、若いお母さんの役ですが、ものすごいどん底と、感情が上がった幸せな状況を、行ったり来たりして、感情がぐるぐる変わっていくんです。なので、「そのメリハリを表現できる人って誰かな?」と思った時に、「長澤さんしかいないだろう」と思ってお願いしました。
MC
今回はいかがでしたか?
矢口監督
バッチリですよ! 予告編の最後の方にチラッと長澤さんの叫び顔が映りますが、僕はそれを「ムンク顔」と呼んでいます。そのムンク顔が、本作の冒頭、タイトルが出るまでの一番つかみのシーンでドカンときます。ここで観客にショックを与えられないと、その後も観続けたいと思ってもらえないのですが、ムンク顔のおかげで、つかみの部分はバッチリです。途中で観るのを止めるわけにはいかないというか、たぶんトイレも行けないんじゃないかと思います。
MC
見たことがない長澤さんでした。
長澤さん
撮影時に、監督から「今までしたことがない顔をしてくれ」と言われて、「ん?どういうことだ?」と思いながら、できる限り自分の今まで見たことのない顔を想像しました。
矢口監督
こういうゾクゾクする系の作品って、「直接そのものを見せるタイプ」の作品もあると思うんですが、本作はどちらかと言うと「それを見てしまった人の顔を見せるタイプ」です。なので、その表情が生ぬるかったら、観客も全然ゾクゾクしないですからね。ファーストシーンのつかみや、中盤は何回も出てきますが、長澤さんのムンク顔を目に焼き付けてほしいです。「こんな顔もできるのか!」と、楽しみにしてほしいですね。
MC
長澤さんは、ご自身ではいかがですか?
長澤さん
意識をして演じるというより、その場で感じるものに対して素直に反応して、私もゾクゾクしていました。本作を観る人にも、きっとゾクゾクしてもらえますよね?
矢口監督
しないわけないでしょう!
MC
長澤さん、矢口監督は現場でいろいろなアイデアを出されるそうですね?
長澤さん
矢口監督は、そのカットを撮る直前に「ここはこんな風に」とか「次はこんな感じで」って言いますよね?
矢口監督
します? そんなことしませんよ!
長澤さん
しますよ。それこそ「見たことがない顔をしてくれ」は直前に言われました。
矢口監督
それは瞬発力を求めているのでしょう!
長澤さん
そういうことが多々あったので、私の中では、監督はサプライズが好きなイメージがあります。演じる側への期待感からなのか、そういうものをその場で求めることがあります。
MC
ポルトで本作をご覧になったお客さんのコメントにもありましたが、本作を観ていると、どんどんアヤちゃんが生きているように見えてきます。作品を共に作って、改めてアヤちゃんに愛着が湧きましたか?
長澤さん
アヤちゃんは共演者だと思っています。監督もアヤちゃんに対しての愛情がすごかったですよね。
矢口監督
失礼ながら、俳優さんたちよりもアヤちゃんを見ている時間の方が長かったと思います。毎日人形を酷使するので、塗装が落ちていくので、俳優さんたちと同じように、毎日メイクさんがアヤちゃんのメイクをしていました。なので、日々アヤちゃんの表情が変わっていって、そこがまた面白いです。
長澤さん
私もアヤちゃんに対してすごく信頼があって、一緒のシーンは「一人じゃないな」って思っていました。
矢口監督
一番長く現場にいるのに、文句を言わない!
長澤さん
そうですね。でも、目で訴えかけてきますよ!
矢口監督
やめてよ(笑)。(会場のお客さん:笑)
MC
「この撮影は大変だった」というシーンはありますか?
長澤さん
今もアヤちゃんを抱いていますが、アヤちゃんは結構重量感があるので、抱きかかえるのが大変なんです。でも、逆にそうであるからこそ、大事にしたくもなります。
MC
外での撮影も大変だったのではないでしょうか?
矢口監督
後半の砂嵐のシーンのことですね。
長澤さん
あれは、砂嵐って伝わりますかね?
矢口監督
一応、砂嵐になっているんですが…でも、現場は映像の三倍くらいすごかったんですよ!
長澤さん
撮影は、本当に大変だなと思いました。映像の三倍体験して、やっと皆さんに届けられる作品ができました。
矢口監督
長澤さんは、劇中では目を開いていますが、撮影では目を開けた瞬間に砂がてんこ盛りで目に入ってしまって、本当に大変だったと思います。目を洗いながら、ずっと撮影をしていました。
長澤さん
確かにそうでしたね(笑)。
MC
最後に、お二人からご挨拶をお願いします。
矢口監督
皆さん、しっとり、ねっとりした作品を想像するかもしれませんが、本作は違います。ゾクゾクして、ストーリーが進むとワクワクする、今までに誰も観たことがないような作品を目指しました。大勢のお客さんに、ジェットコースターに乗るような感覚で、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら映画館で観てほしいと思います。
長澤さん
私も脚本読んだ時に、この物語にどっぷりと浸ってしまいました。この物語がどんな展開を迎えるのか、ワクワク、ドキドキ、ゾクゾクしながら、作品にのめり込んでしまいました。皆さんにもその感覚を味わっていただけると思います。ぜひ映画館で、まずはトイレに行って、そこから集中して本作を観てもらえたらと思います。