「秒速5センチメートル」完成披露試写会

2025.09.17
  • 完成披露

完成披露試写会

「君の名は。」(2016年公開)、「天気の子」(2019年公開)、「すずめの戸締まり」(2022年公開)など、記録的な大ヒット作を生み出してきた新海誠さんの劇場アニメーションを実写映画化する「秒速5センチメートル」が、10月10日に公開となります。主人公・遠野貴樹の18年間にわたる人生の旅を、幼少期、高校生、社会人の3つの時代で描き出す本作。
9月17日にはTOHOシネマズ 六本木ヒルズで完成披露試写会舞台挨拶が行われ、松村北斗さん、高畑充希さん、森七菜さん、青木柚さん、木竜麻生さん、上田悠斗さん、白山乃愛さん、宮﨑あおいさん、吉岡秀隆さん、奥山由之監督が出席しました。観客にはサプライズで、原作の新海誠さんが駆けつけ、本作への思いを明かしました。この日の模様を詳しくレポートします!

松村北斗さん

遠野貴樹役

高畑充希さん

篠原明里役

森七菜さん

澄田花苗役

青木柚さん

高校時代の貴樹役

木竜麻生さん

水野理紗役

上田悠斗さん

幼少期の貴樹役

白山乃愛さん

幼少期の明里役

宮﨑あおいさん

輿水美鳥役

吉岡秀隆さん

小川龍一役

奥山由之監督

新海誠さん

原作

松村さん

今日は足をお運びいただき、誠にありがとうございます。世界で初めて、ここにいる皆さんに実写「秒速5センチメートル」を観ていただけるのだと思うと、すごく感動的です。アニメーションの「秒速5センチメートル」が、すでに世の中にはありますが、このように実写映画も完成しました。本作を観た皆さんの中で、アニメーションと実写でどのような違いを感じて、どのような共通点が生まれるのか…。そして、本作で初めて「秒速5センチメートル」の世界に触れる方々が、心の中でどのように作品を育ててくれるのか、すごく楽しみです。今日はよろしくお願いします。

奥山監督

今日はお越しくださいまして、本当にありがとうございます。(キャスト陣を見渡しながら)この作品は、ご覧のように、誠実にそして、真摯に作品に向き合ってくれる皆さんと、ひとシーン、ひとシーンを大切に、誠実な思いで積み重ねて作った作品です。こうして、皆さんにご覧いただける日が来たことを、心からうれしく思います。

MC

新海誠監督作品としては、本作が初の実写映画化となります。注目度もとても高く、皆さんにとっても大きなチャレンジとなった作品だと思います。そして、完成した作品を一般のお客さんがご覧になるのは、今日が初めてとなりますが、今の率直なお気持ちを教えてください。

松村さん

原作であるアニメーション作品への尊敬もありますし、もちろん実写化ということで、作品の基盤はアニメーションにあるんですが、今回の実写版で初めてこの物語と触れる方も多くいると思っています。なので、そこのバランスや、本作を観て「アニメーションの時ってどうだったんだろう」という興味であったり、「ものを見る・知る」ということへのきらめきが皆さんの中に増えていくと良いなと思います。まだ公開をしていないので、まだ誰も観ていないから、何だかちょっと夢の中で話しているような感覚です(笑)。何とか作品について伝えたいんですが、皆さんがまだ「本作はどういうものなんだろう」と思っている、この僕たちとのギャップがちょっといじらしくも感じます。そういったことも楽しいイベントだなと思います。とにかく今は、皆さんに本作が届くのが楽しみですね。

MC

「秒速5センチメートル」という作品は、実写映画とアニメーションでは、それぞれ心の中での育て方が違いそうな作品でもあります。

松村さん

そうですね。奥山さんもその辺を特に意識されていましたが、アニメーションだから描けることと、生身の人間だから描けるものは、それぞれに素晴らしさを持っていると思います。奥山さんが、この作品を「生身の人間がやる理由」を追求してくださったので、アニメーションと実写の違いに、きっと感動していただけるんじゃないかと期待しています。

高畑さん

緊張しています。正直、すごくドキドキしています。アニメーションのファンの方はたくさんいらっしゃると思います。原作のストーリー自体、すごく人を引き付けるものがある作品です。もちろん一生懸命やったんですが、生身の人間が演じてどう届くのか、皆さんの反応を、薄目で見たいという感じがしています。
各部署の方々の原作への熱量や「絶対に良いものにするぞ」という熱量が素晴らしい現場だったので、参加できて、ここまでたどり着けたことは、すごくありがたいことだと思っています。

森さん

もちろん今も緊張しているんですが、撮影の時もすごく緊張していました。それは、本作には皆さんにとっても、自分たちにとっても、大切な原作があるからです。原作を大事に、寄り添いながら演じ、それを撮ってもらった日々でした。
原作ファンの皆さんに観ていただくことへの緊張ももちろんありますが、すごく大事に作った結果、原作をまだ観たことがない方には、「すごく良い新しい作品が観られた」と思っていただける出会いになると思っています。
原作を知っている人、知らない人、観たことがある人、大好きな人…、いろいろな方がいると思いますが、どんな方でも楽しめる独特の魅力がある作品だと思います。

青木さん

アニメ「秒速5センチメートル」は、リアルに高校生の時に観ていたので、そこに自分が参加することには緊張もありました。出演が決まってからも、撮影に入ってからも、ずっと実感が湧かなかったんですが、今日こうして登壇者の皆さんが揃われているのを見たり、お客さんを前にしたり、(後ろに飾られた大きなパネルを見ながら)このどデカパネルを見て(笑)、やっと本当に公開するんだという実感が湧いてきました。ただ、ちょっと今坊主になってしまっていて…。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑) みんなに気づかれなくて、実感がまた薄れつつあるんですが、本編ではちゃんとあります。

森さん

髪の毛が「あります」ってことだよね?(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑)

青木さん

そうそう。劇中では髪の毛があります。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑)
撮影はずっと種子島でしていました。「忘れられない夏」とよく言われますが、本当に「忘れられない夏」になりました。この先、この思い出を超えられるだろうかという気持ちです。その思い出が映像にも詰まっていると思うので、楽しみに観ていただけたらと思います。

木竜さん

私はパートで言うと「現代」パートに参加しました。撮影に入る前に、先ほど森さんや青木さんがおっしゃっていた種子島の映像を、これから撮影する私たちにも共有してくれました。その映像を見たことで、生きている時代が違うパートを撮ってはいましたが、まるでチームのみんなでバトンを繋いでいくような、そんな力をもらいながら撮影に臨むことができました。
このチームでこの作品を作れたこと、そして参加ができて挑戦できたことも、すごくうれしく思っています。今日来ていただいた皆さんに、楽しんで観ていただけたらと思っています。

上田さん

初めてのこういう舞台で、しかも僕は初めて俳優として参加した作品なので、すごく緊張しています。

MC

緊張感が伝わります。今の気持ちはいかがですか?

上田さん

怖い…。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑)

松村さん

(上田さんを励ますように)怖いよな、こんなにいっぱい人がいたらな。会場にもいっぱい人がいると思って、横を見ても登壇者の皆さんがいっぱいいるしね。

MC

撮影はリラックスして臨めましたか?

上田さん

はい、すごく楽しくできました。

MC

それは、白山さんと仲良くなれたからでしょうか。

上田さん

はい。

MC

上田さんは、松村さんの大ファンだとうかがっています。

松村さん

(上田さんの反応を見て)ちょっと違うっぽいですよ。

上田さん

違くはないです。

松村さん

違くはないんだ…。すごくうれしいんですが、照れくさいですね。僕は、どうしてもそういう話は「違う」ということに無理やりしちゃうんですよ。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑) …好きでいてくれているんだ。

上田さん

はい。

松村さん

(しみじみと)ありがとう。
きっと裏で具体的に僕の好きなところについて話してくれると思うんですが、ちょっと今は、皆さんが怖いので無理かな…。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑) 冗談ですからね。

白山さん

私は、これから観る皆さんに、明里として認めてもらえるかという不安な気持ちと、やっと観ていただけるというワクワクした気持ちが混ざっています。

MC

高畑さんからご覧になって、幼少期の明里を演じた白山さんにはどのような印象を持ちましたか?

高畑さん

(噛み締めるように)かわいい…。(会場のお客さん:笑)
実は、撮影は私の方が先だったんです。だから、「乃愛ちゃんの明里はどんな感じかな」「(白山さんの演じる明里に)合わせたいな」と、ずっと思っていたんですが、撮影の順番で「大人の明里はこうなります」と、そっと差し出す感じになってしまいました。でも、すごく素敵なシーンを(上田さんと白山さんが)二人で紡いでくださいました。お二人が幼少期を演じてくださってうれしいです。

宮﨑さん

すごい作品に参加したんだなと、改めて感じています。試写で奥山監督の「秒速5センチメートル」を観た後に、新海監督の「秒速5センチメートル」を観直す機会がありました。素直に「どちらも好きだな」と思えて、そんな風に感じられたことがとても幸せだと思いました。これから本作を観る方にも、そう思ってほしいなと感じています。
先ほど青木さんがおっしゃったように、去年の夏に種子島で「今後、あの夏を超えられないんじゃないか」と思うくらい、すごくキラキラとした楽しい時間を過ごしました。撮影が終わった後、飛行機に乗る前に(森さんと青木さんと)三人で海をバックに記念撮影をしたんです。あの写真がすごく好きで、いまだに「良い夏だったなぁ…」と思いながら見返しています。この作品の中にも、種子島のとても素敵な時間が流れているので、ぜひそこも楽しんでいただきたいと思います。

森さん

(青木さんと顔を見合わせてうれしそうに)見返してくださっているなんて…。

青木さん

(しみじみと)やったぁ…。うれしいなあ! (登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑)

吉岡さん

(申し訳なさそうに)僕、撮影期間が二日間だったので…。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑) 皆さんの素敵なお話を聞いて、僕は撮影が二日間しかなかったのに、「こんな華々しいところにいて良いのかな」という気持ちになっています。すみません。
でき上がった作品を観たら、五十五歳の僕でも、キュンキュンするような素晴らしい作品になっていました。その中に僕も役としていられたことは、とても光栄なことですし、何よりも奥山作品がまた生まれたことがうれしいです。

MC

吉岡さんは、貴樹に影響を与える人物を演じています。とても重要な役どころですね。

吉岡さん

僕は、貴樹の気持ちが分からないではなくて、それと同時に、現場では北斗くんが貴樹そのものに見えました。彼が持っている、憂いを帯びた、ちょっと悲しげな切ない視線が、いつも僕を(演じた)館長にしてくれるような気がしていました。

奥山監督

原作となる新海さんのアニメーションを、十八年を経て実写化していますが、「秒速5センチメートル」は、いつの時代でも、誰もが普遍的に感じるずっと大切に抱いている原風景のような作品だと思います。例えば、“小さい頃の大切な人との思い出”や、“青春の時の真っ直ぐな気持ち”、“大人になることへの迷いや惑い”など、誰しもが感じることが描かれています。今回、改めて実写として「秒速5センチメートル」という物語を、皆さんにお届けできること、そして作品の監督として関わらせていただいたことが、ものすごく誇らしく、そしてうれしく思っています。

MC

本作は大切な人との「巡り合わせ」を描いた物語です。皆さんにとって、「巡り合わせ」を感じた瞬間について教えてください。

松村さん

僕の一番仲の良い、高校からの友だちが似たような仕事をしていて、最近珍しく舞台に出たんです。うれしくて、僕も観に行ったら、僕が芸能界に入るために受けたオーディションで、一緒にオーディションを受けて、その後違う道に進んだ方が、主演をされていました。あれが2009年のことなので、もう十六年前のことになります。その後会って話したりはしていないんですが、今も変わらず頑張っているところを目の前で見て、すごく刺激になりました。

MC

そういった巡り合わせは、自分の背中を押してくれる存在になりますね。

松村さん

その方が主演をされているとは知らずに観に行ったので「なんか似ているな」と思いながら、ただ、お互いにいろいろな経験も重ねているので、ちょっと確信が持てなかったんですよ。でも「似ているな、似ているな」と思っていて…。終わった後に親友とご飯に行ったら、「あの人、オーディションで一緒だったらしいよ」と言われて、「ああ、やっぱり!」となりました。その瞬間にいろいろなことを考え始めちゃって、しばらく黙ってご飯を食べていました。

MC

十六年前の姿を覚えていたんですね。

松村さん

たくさんいた中で、話しをすることができたのは数人だったんですが、その方がそのうちの一人でした。みんなが緊張している中で、ムードメーカー的な存在だったので、これからもたくさんの人に元気を与えるんだろうなと思うと、負けていられないなと思いました。

高畑さん

私はこの作品のことになるんですが、以前、歌番組(フジテレビ系列にて放送の「2022FNS歌謡祭 第1夜」)で歌うことになった時に、「何の曲でも良いですよ」と言われたんです。なので、周りの人に「何が良いと思う?」と聞いて、歌うことに決まった曲が、山崎まさよしさんの「One more time,One more chance」だったんです。それを歌わせていただいてから間もなくして、この作品のお話をいただいたので「エモい…!」と思って、すごくうれしくてお受けした記憶があります。

奥山監督

この作品では、図らずも、たまたまの巡り合わせのようなことが多々起きていました。そういった、奇跡が詰まっているような制作過程でした。

森さん

今年の初めぐらいにカナダに留学へ行っていたんですが、そこで同じクラスだった男の子が、私が初めて主演を務めたドラマで制作部にいて、一緒にドラマを作っていた男の子でした。「こんなところでまた再会できるんだ」と思って、すごく不思議な気持ちになりました。
ちょうどその子も「勉強したい」と、シフトチェンジしたタイミングで、私も「ここは行けるな」と思ってカナダに行ったタイミングで、そのタイミングがガチっとハマったのがすごくうれしかったです。その後もその子を含めて、みんなでご飯を食べたり、スキー場に行ったりしました。

MC

吉岡さんも俳優生活の中で、そういった巡り合わせを経験したことはありますか?

吉岡さん

(突然話を振られて驚きつつ)僕ですか…? ないですね…(苦笑)。ただ、最近の話なんですが、ちょっと前にテレビを点けて「なんか見たことある子供がいるな」と思ったら、僕でした。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑)
「北の国から」(1981年からフジテレビ系列にて放送。吉岡さんが黒板純役を演じたドラマ)が放送されていたんです。自分に向かって「お前これからまだまだ(俳優業を)四十年後もやっているぞ」という気持ちになりました。これは巡り合わせでしょうか?

MC

それは吉岡さんしかできない巡り合わせです。宮﨑さんはいかがでしょうか。

宮﨑さん

十代の頃からお世話になっているスタイリストさんがいるんですが、その方とバッタリ会う確率がすごく多いんです。商業施設のエレベーターで待っていて扉が開いたらそこにいたり、スーパーから出たら目の前にいたり、街を歩いていたら目の前から歩いて来たりします。
(劇中で演じた)美鳥さんが「会いたい人とは会える」というセリフを言う場面があるんですが、それはすごく実感を持って、自分の中から自然に出てくるセリフだったと感じています。
最近も移動車に乗っていた時に、後ろを振り返ったらその人の車がいたことがありました。だから、お互いが引き寄せ合うって、すごくあることなんだなぁと思っています。私も会いたい人とは会えるタイプだと思うので、美鳥さんの気持ちがよく分かります。

奥山監督

僕も、たまたま会いましたよね。

宮﨑さん

たまたま会いました!

奥山監督

この作品の打ち合わせをした数日後に、街で「奥山さん」と声をかけられました。眼鏡をかけていたので、最初は「誰だろう」と思っていたら、「宮﨑です」と挨拶をしてくれました。「え、宮﨑あおい!?」ってなりました。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑) すごくびっくりしました。だって、街中で宮﨑あおいさんに会うことなんてないじゃないですか。だから、これは不思議な巡り合わせだなと思いました。

MC

会場の皆さんにはお伝えしていなかったんですが、本日はもうお一人、素敵なゲストの方にお越しいただいております。

■山崎まさよしさんの楽曲「One more time,One more chance」が流れる中、新海誠さんがステージに登場。大きな拍手を浴びました。

新海さん

皆さんの話を裏で聞いていたんですが、原作にとても気を遣っていただいて、まるで不朽の名作みたいに言ってくださって…。でも、本当に大した作品じゃないんです。二十年前くらいに、まだアニメの作り方もよく分からないまま、アパートの一室でスタッフを集めて、見よう見まねで作った作品なので、「こんなもので良かったんだろうか」という後悔がずっとありました。もちろん必死に作った作品ですが、自分の心残りみたいなものがギュッと詰まった、でも愛おしい作品でもあります。
今回、実写映画化していただくと聞いて、「この作品で良いんですか」と、すごく不安で申し訳ない気持ちになったんです。もっと他に素晴らしい原作があるんじゃないかと思ったんですが、脚本を読んで、キャストの方に会って、試写を拝見したら、あまりにも素晴らしい作品になっていました。ここで原作者がでしゃばるのは良くないと思ったんですが、今日は皆さんにお礼だけお伝えしたく、少しだけお邪魔しに参りました。本当に素晴らしい作品をありがとうございました。(会場のお客さん:拍手)

MC

試写をご覧になった時には、どのような感想を持たれましたか?

新海さん

最初はどういう気持ちで観て良いのか分からなかったんですが、観ている内に何だかよく分からない涙が出てきてしまって…。
もしかしたら、当時の辛かった制作のことを思い出して泣いているのか、あるいは当時の映画に含まれていたかもしれない、いくつかの要素をものすごく広げてくれた物語の強さに泣いているのか。または、もう過ぎ去ってしまった2000年代という、日本が持っていた可能性みたいなものに泣いているのか…。何だか分からないままに、自分が原作を作ったにも関わらず、奥山組の作品に泣かされてしまいました。本当に経験したことのない、感動でした。
皆さん、期待して観ていただいて良いと思います。

MC

映画の中で生きる、貴樹と明里はいかがでしたか?

新海さん

先ほどアニメを見よう見まねで作ったと申し上げましたが、当時はキャラクターを描くというのが、どういうことかもよく分かっていなかったので、貴樹がどういう男なのか、明里がどういう女性なのかは、よく分からないまま作っていたんです。特に、「明里はどういう女性なんだろう」と、未だに分かりませんでした。でも、本作を観たら、北斗くんと高畑さん、奥山監督から、「貴樹はこういう男です」「明里はこういう人です」と、教えていただきました。だから、ようやく貴樹と明里と知り合えたような気がしました。

松村さん

原作がある以上、やはり「原作者の方にとって良い映画である」というのが、必要な要素というか、大切にしたいものだと思っています。
実は、新海さんが原作者であるということが、僕の中でプレッシャーでもあったので、こういう感想をいただだいて、やっと安心しました。これで、100パーセントの気持ちでお客さんに向けて一歩踏みだすことができます。今、新海さんからいただいた言葉は、まさにそんな言葉でした。

高畑さん

私もホッとしたというのが一番大きいです。衣装合わせの段階でも「明里ってどんな人なのだろう」と、分からない要素が多かったので「どうしよう、どうしよう」と監督に泣きついたりもしていたんです。でも、新海さんも今「分からなかった」とおっしゃっていたので、ちょっとホッとしました。

新海さん

(笑)。

高畑さん

一緒に悩んでくれるチームの皆さんがいて良かったと思いましたし、新海さんが涙して作品を観てくださったのは、本当にありがたいことだと思います。

奥山監督

まずは本当に、光栄です。ありがとうございます。
新海さんが先ほどおっしゃっていた、「なぜ涙しているのかわからないような感動」は「こうだから感動できる」「こうだから泣ける」みたいに説明できることを超えた、心の内から体から感動する瞬間だと思っています。そういう経験を僕は何度かしたことがあるんですが、新海さんのお言葉で、本作をそういう作品にできたという自信を持たせていただきました。そして、実写化したことの意義を感じることができました。
まずは、我が子のような原作・物語を預けていただいたことを、本当にありがたく思っています。(新海さんの方を見ながら)ありがとうございます。(お互いの距離がステージ上で離れた場所にいたことから)距離が遠くて、すみません。(登壇者の皆さん&会場のお客さん:笑)

新海さん

遠いですね(笑)。
でも、本当に素敵な作品にしてくださって、心から感謝しています。

奥山監督

ありがとうございます。

MC

キャストの皆さんの中には、これまでの新海監督作品に参加されている方もいらっしゃいます。「すずめの戸締まり」には松村さん、「天気の子」には森さん、「雲のむこう、約束の場所」(2004年公開)には吉岡さんが出演されていました。新海さんから、森さん、吉岡さんに伝えたいことはありますか?

新海さん

こんな巡り合わせがあるということで、誰がキャストを決めたんだろうと思ったりしました。
七菜ちゃんに関しては、(森さんが彰子役を演じた公開中の映画)「国宝」を観ましたよ。

森さん

ありがとうございます(照笑)。

新海さん

「国宝」を観た方がたくさんいらっしゃると思いますが、本当に素晴らしかったです。すごく大人っぽい役をやっていたので、僕の知っている七菜ちゃんとは違う、遠いところまで行った役者さんになっていて、びっくりしたんです。でも、同じような時期に「秒速5センチメートル」を観たら、こっちでは高校生の花苗になっていました。僕が知り合ったばかりの、大分の高校生の女の子の時と同じ七菜ちゃんが、スクリーンの中にいました。そこで、七菜ちゃんの天才性みたいなものを目の当たりにしました。2019年に「天気の子」に出演していただいてからここまで、彼女の獲得してきたものの大きさを「秒速5センチメートル」を観ながら感じました。(実感を込めながら)すごいですね…。

森さん

身に余るお言葉です。そもそもこの舞台に、新海さんと一緒に立たせていただけること自体が、本当に光栄なことです。

新海さん

久しぶりですね。

森さん

とても久しぶりです。素敵な言葉をいただいて、とてもうれしいです。ありがとうございます。

新海さん

「雲のむこう、約束の場所」は、もう20年前の作品になります。僕の商業長編デビュー作なんですが、吉岡さんには、その作品の主役をやっていただきました。あの時は、本当に怖いもの知らずで「一番好きな声の人だから」という理由で、吉岡さんにお願いしてしまいましたが、まさかお受けしてくださるとは…。僕は子どもの頃からずっと、吉岡さんが好きです。「北の国から」は、いろいろなものの原点です。吉岡さんとは二歳くらい年齢が違うんですが、「北の国から」で純くんが遭ういろいろなひどい出来事が、自分の未来予想図みたいに思えて、自分の未来の姿、お兄さんみたいな思いでずっと見てきました。
「秒速5センチメートル」を観たら、僕の一番好きな声の北斗くんと、やっぱり一番好きな声の吉岡さんが出ている。一番好きな少年である純くん、一番好きな青年の北斗くん、おじさんになった吉岡さん…。

吉岡さん

(笑)。

新海さん

そんな二人が同じ画面で会話を交わしているのは、僕にとっては特別なご褒美みたいなものでした。贅沢なものを観させていただきました。

吉岡さん

感無量です!
「秒速5センチメートル」もすごく好きなんですが、僕は「雲のむこう、約束の場所」も大好きなんです。藤沢浩紀という役を演じたんですが、その役があったからこそ本作で館長役を演じられたと思うと、いろいろな縁があって今があるんだなと思います。ありがとうございます。

MC

これから本作をご覧になる皆さんに、新海さんから一言お願いいたします。

新海さん

僕が、ちょうど奥山監督や、北斗くんと同じくらいの年齢の時に作ったのが「秒速5センチメートル」です。あの頃は、今よりずっと気持ちが柔らかくて、コンビニに入ったり、出たりするだけで、何だか悲しくて泣きそうになったり、電話ボックスに車のヘッドライトが当たって反射しているのを見て、切ない気持ちになっていました。「そういう気持ちだけで作品が一本作れないか」と思って作ったのが、「秒速5センチメートル」です。当時でき上がったものは、ちょっと不器用なものでしたが、本作では、あの時言葉にできなかった感情を、俳優の皆さんや奥山組の皆さんが、もっともっと届きやすい形にして、素敵な作品にしてくださいました。ぜひ楽しみにしていただければと思います。ありがとうございました。(会場のお客さん:拍手)

MC

では最後に、奥山監督と松村さんからメッセージをお願いいたします。

奥山監督

本作の見方は指定したくはないんですが、日々悩みや不安などを抱えながら生きる中で、観本作を観た時に「大丈夫だよ」と背中に手を添えられるような作品になったんじゃないかと思うので、ぜひご覧いただけたらと思います。今日はお越しいただき、ありがとうございました。(会場のお客さん:拍手)

松村さん

この物語は言葉を大切にしている作品ですが、先ほど新海さんがおっしゃったように、言葉にできない感情みたいなものが、物語の終わりまでずっと続いていくような、すごく切実な物語だと思います。
そういった切実な感情は、すごく美しいものだと思います。きっと皆さんの心の中にある切実な部分と共鳴して、今よりもっと美しくなるんじゃないかと思います。帰り道に見た空や、人と話した言葉が、さっきよりもちょっと美しく感じるような映画だと思います。
目の前で起こることを、ひたすら何も考えずに観て良い作品だと思います。改めて、今日は皆さん、足を運んでいただきありがとうございました。(会場のお客さん:拍手)