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スタジオジブリの鈴木プロデューサーが講演
「レッドタートル ある島の物語」講演会付き試写会

2016年09月10日

「レッドタートル ある島の物語」講演会付き試写会

<左から、渡辺真理さん、鈴木敏夫さん>

オランダ出身のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督が手掛けた初の長編アニメーション映画「レッドタートル ある島の物語」。本作の公開に先駆け、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーによる講演会付きの試写会が、9月10日、東京・一ツ橋ホールにて行われました。本作は、マイケル監督の代表作「岸辺のふたり」に、鈴木プロデューサーが惚れ込んだことが始まりとなり、高畑勲監督もアーティスティック・プロデューサーとして参加。初の海外共同制作でつくりあげたスタジオジブリの最新作として、今年5月に開催された第69回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門で特別賞を受賞しました。さらに、第41回トロント国際映画祭ディスカバリー部門に出品されています。
講演会では、本作のこだわりのシーンや、これまでのジブリ作品づくりの舞台裏を包み隠さず大公開! そんなイベントの様子をレポートいたします。

鈴木敏夫さん(プロデューサー)

スタジオジブリの鈴木です。よろしくお願いします。
渡辺真理さん

鈴木さんの講演会なのに、「お前はどうしたんだ!」というくらい赤い格好ですが...。赤のカメですし、ここにいるだけでもご協力しようかと思います。


鈴木さん:
とんでもないです。すごく嬉しいです。

渡辺さん:
高畑さんがインタビューの中で言っていた、「男が薄々気づいていたように、女は赤いカメなのだ」、というのが私が受け取ったマイケルからのメッセージです。

鈴木さん:
(女性は)赤いカメですよね。

渡辺さん:
観てもらう皆さんは、自分を投影しながら観てもらえる映画なんじゃないかと思いました。これから映画を観る皆さんにはどこまで言っていいのか...。

鈴木さん:
僕の意見なんですけれど、映画をいくら言葉で語っても、映画を語ることにはならないと思います。僕は「天空の城ラピュタ」の映画が公開される頃に『アニメージュ』という雑誌をやっていたんです。実を言うと、「天空の城ラピュタ」は映画に合わせて小説版がありました。そしたら、映画公開の前に小説版のほうが最終回を迎えることになったんです。映画の公開前にラストシーンを明らかにしていいのかやっぱり悩んだんですよね。でもいくら書いたって映画のことはわからないかなと思いました。

渡辺さん:
わかりますけれど...。

鈴木さん:
僕は、言葉では伝えきれないものがあるゆえに映画があると思うんです。だから、確かに皆さん、観ていないけれど、映画を観ながら、「鈴木が言っていたあれがこうなのか」と思って観てもらうのもエンターテインメントの一つだと思います。そういうことで言うと、(渡辺さんと鈴木さんは)お互い観ているわけです。我慢しながらしゃべるのはすごく難しいです(笑)。

渡辺さん:
そうですね。映画をメインとして、このような講演会が前菜のようになればいいですよね。ちなみに「天空の城ラピュタ」の小説は、結局...。

鈴木さん:
掲載したんです。公開前にラストシーンを出しました。でも、「なんでラストシーンを明らかにするのか、僕たちはこれから観るんだぞ」という意見は皆無でした。

渡辺さん:
なるほど。では、「レッドタートル ある島の物語」の「アレを話してもソレを話しても大丈夫」と鈴木さんは言っていましたけれど、どんなことを話したいですか? 

鈴木さん:
宣伝などでおわかりだと思うんですけれど、この映画には男女が出てきます。そして女性が沖に向かってカメの甲羅を流します。

渡辺さん:
そこのシーンだけ、ありましたね。

鈴木さん:
皆さん、これ何のことかわからないと思いますがこれは結構大事なシーンです。

渡辺さん:
沖に流すんですよね。

鈴木さん:
そうそう。あれは、なんで流すんですか?

渡辺さん:
それは、今日800人の方が来ているんですが、この映画って、おそらく800通りの観方ができる映画だと思うんです。

鈴木さん:
80通りぐらいじゃないですか(笑)? お客さんは、なんとなくわかりますよね(会場笑)?

渡辺さん:
お客様としても、それは聞かれても...という話になりますからね。

鈴木さん:
今、僕は大事なところは言っていないんですよ。ある男が出てきて、女性が現れて、その女性が沖に向かってカメの甲羅を流す。これがすごくいいシーンなんです。ちょっとだけ理由を説明します。男が、無人島に辿りつくんですが、やっぱり文明の世界に戻りたい。自分でイカダを作って島から脱出しようとするけれど、何回やってもうまくいかない。なんでかというと、邪魔していたヤツがいるんですよ。これがレッドタートル。そしてある女性。ちょっと関係があるんですよ(会場笑)。これだと、何だかわかっちゃいますね(笑)。女性と男性が一緒になった時、なんか知らないけれど、カメの甲羅を沖に流す。すると、男も作りかけのイカダを流すんです。

渡辺さん:
それ、連動していますよね。

鈴木さん:
やっぱり女性ってすごいですよね。

渡辺さん:
腹を決めないと、という時はありますもんね。

鈴木さん:
怖いですね。でも、それでしょ?

渡辺さん:
でも、男の人の方が決めるのは遅いなっていう時はありますよね。

鈴木さん:
男の方がですか? 女性は優柔不断ですよね。だから、彼女が、いきなり甲羅を流して、「あなたはどうするの?」ということで、男も慌てて作りかけのイカダを流すんです。あれ、いいシーンですよね。

渡辺さん:
現実社会でも逆にはならないものですよね?

鈴木さん:
これはいろいろと議論があったシーンなんです。できあがった映画は、女性が甲羅を流して、後でイカダを流すとなっているんですけれど、マイケルは同時がいいと言い出したんです。

渡辺さん:
マイケル監督、高畑監督、鈴木プロデューサーで、それぞれ意見は?

鈴木さん:
いろいろあったんですよ。イカダをすぐ流すとか、もっと間があった方がいいとか...。日本サイドでもいろいろ話しあったんです。で、ある女性が「イカダに乗って二人で他の国を目指せばいいのに」って言ったり...(笑)。

渡辺さん:
全く違うストーリーになりますね。

鈴木さん:
そういう考えの人もいるんです。だから、あのシーンは本当におもしろかったんです。

渡辺さん:
そのシーン以外にも、いろいろと話し合いはしたのですか?

鈴木さん:
やりましたね。ラストのシーンは僕が知らない間につくられちゃったんです。「えっ!?」ってなりました。シナリオにはないし、ストーリーボードにもないシーンでした。僕らは完成した映画を観て、「付け加えやがったな」って思いました(笑)。

渡辺さん:
「付け加えやがったな」というのは、どういう気持ちですか?

鈴木さん:
でも、「付け加えやがったな」という気持ちはあっという間に飛んで、むしろ新鮮に観えました。同時に、いろんなことを考えました。やっぱりこの映画は男と女の話なので、いろんなものをそぎ落として、男女のLOVEが成立するのかというところですよね。ちょっとうらやましいなって思いました。マイケルに頭にきましたね。要するにね、今から観てもらう映画ってマイケルの自伝なんですよね。

渡辺さん:
そういうことなんですか?

鈴木さん:
そうなんですよ。マイケルが宣伝のために日本に来た時、キャンペーンが終わった後に、ごくろうさまも兼ねて、マイケルの家族と高畑さん推薦の裏磐梯に行ったんです。そしたら、「日本にこんな美しいところがあるんだ」と、マイケルの家族がみんな喜んでくれたんです。奥さんが、「ここはスイスですね。それぐらいキレイです」と言っていたくらいです。
そして、皆さん、マイケル監督の顔ってわかります? 平たく言うと、いい男なんです。
奥さんも麗しい方で、娘さんと息子がいたんだけれど、映画と違って、本当に4人家族なんです。これがビックリするぐらい美男美女なんです。なんでこんな家族が生まれちゃったんだろうって思いました。そして見ていたら、たった1泊2日だったんだけれど、「レッドタートル ある島の物語」って自分の家族をモデルに描いた作品なんだなと思い知らされました。
マイケルが日本にキャンペーンに来た時、実は宮崎駿のところに挨拶に来てくれたんです。宮崎が話す間に通訳が入って、僕は隣にいたんですが、(宮崎監督は)マイケルに自分の言いたいことを伝えながら、「僕にいい顔しているね、いい顔しているね」って言ったんです。僕は、二人の顔を比べるじゃないですか。そりゃあ、ずいぶん違いますよね(会場笑)。


渡辺さん:
宮崎監督もかっこいいですよね。

鈴木さん:
見方によってはね(笑)。いろいろしゃべっている間に、奥さんも素晴らしい、つつましやかな方だよねって非常に珍しい言葉を使いました。(宮崎監督が)本人に映画の感想を伝えながら、合い間に僕に伝えてきたんです。なんでしょうね。たぶん、二人のたたずまいに圧倒されたんですよ。

渡辺さん:
そんなに素敵だったんですね。

鈴木さん:
嫌になるぐらいね(笑)。振り返ると、映画で描いた女性はあきらかに彼女なんです。そして主人公の男はマイケル、と考えると、全部わかりやすいんです。それを特殊なものじゃなくて普遍的なものにしているっていうのが、彼の力なんだと思います。甲羅にこだわったのは、明らかにどっちかが取り壊したんだろうって思いました。

渡辺さん:
聞いてみたんですか?

鈴木さん:
明らかに彼女ですよね、甲羅を流すシーンというのは。それで、慌ててイカダを流すのがマイケルだから、それによってYESでしょ。二人が一緒になるわけです。

渡辺さん:
鈴木家はどうなんですか?

鈴木さん:
うちはどうなのかな。それは置いときましょう(笑)。

渡辺さん:
この前、ジブリにインタビューでお邪魔した時にお伺いしたのですが、ジブリのスタジオを設計されたのが宮崎監督。その場所をどこにしようかと歩いていた時に、宮崎監督がパタッと立ち止まって...ということがありましたね?

鈴木さん:
ありましたね。スタジオジブリって、小金井、東京の郊外にあります。最初のジブリは貸しビルに入っていて吉祥寺だったんです。その後、宮崎がこだわったのが、小金井なんです。僕はこちらの地域に疎いんで、なんで小金井なのかなって思っていたんです。不動産屋の人も連れないで、二人でかなり長い時間グルグル物件を探して回るんです。夕方にある1軒を見つけて立ち止まったので、「宮さん、どうしたんですか」って聞いたんです。彼はその時、50歳くらいでしたが、「僕の初恋の人の家」って言ったんです。当時、振られてそこから武蔵境まで一人で歩いたそうなんです。それで、その道を二人で歩こうよって...(会場笑)。
バカじゃないかと思いました。本人はあの日に帰って浸りきっちゃっているわけですよ。それは、印象的でした。確かに、その近くに空き地があって、「そこをスタジオジブリにしようか」って言ったので、いくらなんでもね...(笑)。


渡辺さん:
今、初恋の人の家が近くにあるところに、ジブリのスタジオがあるわけですね?

鈴木さん:
まぁ何かあるんでしょうね。あの人(宮崎監督)って、自分の子どもの頃の記憶、青春の頃の記憶をまざまざと自分で抱える人ですよね。

渡辺さん:
マイケル監督と奥様のお話に対する「いいな、素敵だな」という目線なんかも含めると、宮崎監督も鈴木さんも、すごくロマンチストな部分があるなと思いました。

鈴木さん:
たぶん、二人は実現できなかったからじゃないかな。この映画は、自然に翻弄されるなか、二人の男女が出会って、小さいけれど確かな愛を育む、それで一生を過ごして...っていう映画だと思うんです。それを自分たちをモデルに見事にやってのけるわけです。ちょっとうらやましかったですね。二人を見ていてその感じが伝わってくるんですよ。僕、本当に今度の映画って、今まで体験したことないんですよ。

渡辺さん:
どういう感じに体験したことがないんですか?

鈴木さん:
今までで言うと、マイケルがつくった2000年アカデミー賞の短編賞をとった「岸辺のふたり」。これは、一人の女性の一生を描く物語です。お父さんと離ればなれになった少女が、大人になって、中年になって、おばあさんになるという物語なんです。二人が別れた場所がオランダだったのですが、オランダは干拓の街だったんで、それによって水がなくなっていくというのも同時に描いているんです。その2本を並行で描くんです。それが僕は大好きで、たぶん、100回ぐらい観ているんです。観ているうちに、マイケルに会って、ふと出来心で「長編をつくってみない?」って言ったら、彼が首を縦にふってくれたんです。条件は「ジブリが手伝ってくれるなら」ということでした。僕としては、本当に彼が長編をつくったらどうなるかをその時には何も考えていなかったです。普段だったら、宮崎駿作品にしろ、高畑勲作品にしろ、何か考えるんです。

渡辺さん:
例えばどのようにですか?

鈴木さん:
例えばっていうと、僕は会社の偉い人なんで...(笑)。そうすると、会社の維持、運営なども考えなければならないんです。ついでだから言っちゃいますけれど、本当は「魔女の宅急便」はおばあちゃんにケーキを届けるってエンドマークだったんですよ。

渡辺さん:
そこで終わりですか?

鈴木さん:
終わりです。それでは会社の運営ができないと思いました。それで彼女が飛べなくなって飛行船が飛んできて大活躍、とすればお客さんが来てくれるって思ったんです。その時は「なんでそんなシーンを宮さんにやらせようとするんだ」って、僕はスタッフから総スカンでした。僕は開き直って「他の人がやるならともかく、宮さんがやるんならいいんだ」って言いました。例えば、「おもひでぽろぽろ」でも、27歳の娘が子ども時代のことを思い出すっていうテーマに、「男を入れましょうよ」って言いました。要するに観客層を広げようということです。不純な動機ですよね。けれど今回は何もないんですよ。

渡辺さん:
それは、最初からないようにしようとしたということですか?

鈴木さん:
いや。気がついたら、犯罪を犯しているって感じですよね。だから、手を出しちゃったんですよ。彼に声をかけた時も、誰にも相談しませんでした。それが、何年後にできて、どれぐらいの売上げになるかとか何も考えなかったんですよ。だから、カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門賞をもらいましたけれど、「ヨーロッパのスタッフを使って映画をつくる、どうしてそんな大胆なことをお考えになったんですか?」と聞かれるとギャップを感じるんです。

渡辺さん:
カンヌで「ある視点」部門賞を受賞して、そういうインタビューもたくさん受けたと思います。

鈴木さん:
多かったです。日本人がヨーロッパのスタッフを使って映画をつくるって珍しいみたいなんですよね。でも、僕にはそんな大それた気持ちはないんですよ。だって、僕はマイケルと何回も会っているし、仲良くなったわけです。だから、気楽にしたオファーなんです。でも「あなたはジブリの人じゃないから、あなたに余計な負担は負わせない」という気持ちで言っているわけです。
本当に趣味なんですよ。だから、東宝さんに配給をお願いするときも、これだけの映画館を用意するとかいろいろ言われましたが、言われた時は焦りました。だって、そんなつもりなかったんです。「もっと小さく封切ってよ」って思いました。


渡辺さん:
ジブリの大博覧会、皆さんも見たと思います。本当にいろいろな展示がしてあって、実はこんなに大変でいろいろなチャレンジがあって、こんな風に乗りきったんだなと思いました。「レッドタートル ある島の物語」は、それとはまた別で、純粋にマイケル監督の長編が観たいっていうところでスタートしたということですよね。ある意味、珍しいスタートを切ったということですよね?

鈴木さん:
大博覧会のことを言われましたが、実際の映画製作ではあまり苦労していないですね。例えば糸井さん(コピーライター)とのやりとり、楽しかったんですよ。僕が思いつかない言葉を考えてくれるわけです。嬉しいですよね。ただ、「千と千尋の神隠し」のときに、彼がつくってくれたコピーで「迷子になろうよ、いっしょに」というコピーがありました。うまいですよね。それは事情があって実際の映画には使わなかったんですが、実は三鷹の森ジブリ美術館のコピーに流用させてもらったんですよ。もったいないと思ったんですよ。美術館を建てた時に、「糸井さんこれ、タダでください」って言ったんです(笑)。そしたら許可してくれました。

渡辺さん:
やりとり自体、とっても濃くて楽しいとは思うんですが...。

鈴木さん:
だいたいいろんな事情があって、それをまともに受けていたらやっていけないんです。やると決めたら、もう遊びの世界ですね。展示を観てもらうとわかるんですけれど、普通、ジブリって言うと、「風の谷のナウシカ」から「天空の城ラピュタ」がどうした、「となりのトトロ」へと順番に表すんです。でも僕は、スタッフに一番最初に言ったのは、「順番にやるな」ということです。それぞれにまつわるポスター、新聞広告、グッズだの、グチャグチャにやれって言ったんです。なんでかって言ったら、自分がお客さんになってみたときに、いろいろな記憶の断片って、頭の中に整理してちゃんとしまっていなくて、実を言うと、あそこにあったりここにあったりするんです。お客さんの頭の中の世界をそのまま展示にできたら、本当はおもしろいですよね。それを考え始めると、いろいろやりたくなってくるんですよ。

渡辺さん:
確かにそうですね。

鈴木さん:
ジブリは作品が22本あるんですけれど、やっぱり自分が一番好きな作品ってそんなに多くないと思うんです。それが、まとまってここにあったら、それを見て終わりです。それだったらつまらない。ところがあれがないと思って、ちょっと行ってみたら、ここにあった。そういう風に人間の頭の中を展示にしてみたかったんですよね。そういうことが好きなんですよ。

渡辺さん:
そういうのを鈴木さんがあきらめないでやるから、作業がギリギリになったりしますか?

鈴木さん:
ちょっとギリギリになることもあります。直前まで、僕はみんなを大混乱させるんですよ。というのは、本当は六本木の大博覧会って、入ったらいきなり、飛行機が飛んでいる部屋にしてありました。そして真ん中にいろんな宣材物があって、最後は「レッドタートル ある島の物語」だったんです。そういう時に、これを逆にして最初は「レッドタートル ある島の物語」にして、最後は飛行機にしたらどうだろうって考えるんです。頭の中のどこかが教えてくれるんですよ。

渡辺さん:
ひらめくんですか?

鈴木さん:
そう。やってみたら「あれは正解でした」って皆が言う。僕、実はそういう時、ちょっと思いついて言ってみただけだから後ろめたいんです。あんまり真面目に言わないでよって思います。

渡辺さん:
思いつきは、ずっと前からですか?

鈴木さん:
そんなたいしたことだとは思っていないですけれど(笑)。子どもがね、ゲームをやって勝つだの、負けるだのあるじゃないですか。そういう時とちょっと似ていると思います。僕、メンコとか割と好きだったんです。何でもいいから勝てばいいんじゃなくて、クスッと笑っちゃうこととか、子どもの頃から考えていました。メンコはわりと強かったです。プロセスがおもしろいじゃないですか。
そう考えると、宮崎駿が監督で映画をつくる時、自分の役割って何だろうって思ったら、プロデューサーしかないじゃないですか。描ける人はいっぱいいるしやる必要がないんですよ。


渡辺さん:
プロデューサーを目指してなったわけじゃなくて?

鈴木さん:
まったくないですね。なんとなく自分の中で予感があったんですよ。プロデューサーって、雑用係でしょ。実際、どっかにプロデューサーがいないかって探したこともあるんです。何人も説得したんですけれど誰もやらないから自分ですることにしたんです。そして、ジブリという会社をちゃんとつくって運営しなきゃいけないって瞬間があったんです。その時も同じなんです。一番最初にやったことは社長探しなんですよ。

渡辺さん:
社長も探したんですか?

鈴木さん:
どっかにいないかなと思ってね。でもなかなかいなかったんですよね。みんな、嫌がったんですよ。僕は自分でやりたくないんですよ。プロデューサーって言っても、なんで僕がやらなきゃいけないのかなって...。

渡辺さん:
(鈴木さんは)ジブリのプロデューサーやスポークスマンとして出ていますが、自分から出たくて出ているわけじゃないということですか?

鈴木さん:
僕、取材をする側だったんで、取材される側の大変さをわかっていたんです。実を言うと、「もののけ姫」の途中まで全部、宮崎駿しかしゃべっていないんです。そしたら、宮崎が「映画をつくって、なんで僕が取材まで受けなきゃいけないんだ。そういうことやるのは、本来、プロデューサーの仕事でしょ!」って、本気で怒ったんです。それでしょうがなく...。普段、僕のこと、プロデューサーなんて言ったこともないくせに(笑)。

渡辺さん:
いつもは友人の鈴木さんですよね。

鈴木さん:
そう。いろいろ僕がやらなきゃいけなくなったのはそこからです。もうあきらめました。

渡辺さん:
宮崎さんが怒ったのは、その時ぐらいですか?

鈴木さん:
いろんなことで怒るんですよ。怒るのが好きなんだと思います。言いだすとキリがないんで...。

渡辺さん:
相手が怒りに転じるときは、どういう風に乗りきるんですか?

鈴木さん:
高畑勲、宮崎駿の先輩にあたる、大塚康生っていう人がいたんです。で、僕は「風の谷のナウシカ」をつくり始める前に、大塚さんに相談に行ったんです。その時まで宮崎と付き合ったのは、取材及び「風の谷のナウシカ」っていうマンガの連載でだけだったんです。でも、今度は作品をつくらなければいけない。マンガは一人で描けばいいけれど、映画はそういうわけにはいかないので置かれる状況が全く違うんです。僕、大塚さんと親しかったんで、「大塚さん、教えてもらえませんか。どうやって宮さんと付き合うんですかね」って聞いたんです。そしたら大塚さんから「鈴木さん簡単だよ。宮さんがいろんなこと言うけれど、大人だと思わない方がいいよ。子どもが騒いでいるって思った方がいいよ。子どもがいろんなことを言うことに対しては、大人は我慢できるでしょ?」って言われたんです。なるほどって思いました。だから、宮崎が何を言おうと、「また言っている」って思うようにしています。大塚さんに感謝しています。
高畑さんについてはインテリだし、すごそうに見えますが、大塚さんは「同じだから」って言っていました(会場笑)。
ちなみに本人(宮崎監督)が大塚さんが言っていたことを認めた日があったらしく、僕の面倒をみてくれる白木さんっていう女性がいるんですが、ある時に白木さんが宮崎に向かって「一番上のお兄さん(宮崎監督)、真ん中のお兄さん(高畑監督)、末っ子の鈴木さんがね、長男と次男がいろんなこと言うから本当に大変ですよ」って言ったら、宮崎駿が白木さんに向かって「違うんだよ。鈴木さんは末の弟じゃない、僕らのお父さんなんだ」と言ったそうなんです(笑)。さっきのことと符合するでしょ(会場笑)?


渡辺さん:
父として、温かく愛で包んで...。

鈴木さん:
そういういいご意見がきたんで、基本的には本当に腹は立たないです。

渡辺さん:
宮崎さんももちろん、レッドタートルを観ましたよね?

鈴木さん:
そうですよ。まず第一にマイケルを前にして「10年、よくがんばりました」って言っていました。「それは簡単にできることではない。途中でくじける」って。確かに、宮崎は気が短くてせっかちなので長期に渡って仕事をすることに対して抵抗があるんですよ。二つ目がね、「僕らは商業アニメーションをつくっている。そうするとつい、お客さんの顔が目に浮かぶ。それで自分の弱さが出ちゃう。でもあなたは媚びているところがなに一つない。それも素晴らしい」って言っていました。自分と比較したんでしょうね。

渡辺さん:
お客さんを喜ばせたいって思うところが、私たちも「好き」ってなる要因だと思います。

鈴木さん:
ともすると、やりすぎるんですよね。「となりのトトロ」の時に、最初の案をみたら、一番最初からトトロが出てくるんです(笑)。あの庭に出てきて、大活躍なんです。それで「鈴木さん、どうかな」って言うんです(笑)。僕、ダメだと思いました。サービス精神が過剰になってしまってトトロを出さなきゃって思うんですかね...。それで、トトロの登場するタイミングについていろいろと話し合って、苦し紛れだといろいろなことを思いつくので、「ETが出てくるのは中盤でしょ」って言ったんです(会場笑)。そしたら、宮崎はETを観たことがあったみたいで「あっ、そっか、中盤だ。でもその間、どうする」って言ったんですよ。ETだと最初は手の端が見えたり、足元が見えたり...、そして真ん中で登場することを伝えると、「わかった!」って大きい声で言って、でかい紙に1本線を引くんです。それで「真ん中、トトロ登場」って書いちゃうんですよ(笑)。宮崎駿の本当におもしろいところです。彼の名誉のために言いますが、これは、なかなかできないことだと思うんです。今の一連の話、スタッフ全員が聞いているんです。隠さないんです。普通、こんなことを言ったら恥ずかしいとか考えると思うのですが、創作に関しては、全部オープンです。それは彼が守っていることなんです。

渡辺さん:
スタッフも、ハラハラですよね。

鈴木さん:
みんな、普段より下を向いたりして、聞いているんです。それも含めてあの人、ピュアな人なんです。「ハウルの動く城」の時も、スタッフ全員集めて作品説明会をしたんです。そこで宮崎が「今回の作品のテーマは、今までやったことがないけれど、僕の初めてのラブストーリー」と言ったんです。そうしたら、「いつも入っているよ」ってスタッフから笑いが入ったんです。そしたら「うるさい!」って返したんですが、その後に「本格的なラブストーリーをどうつくるか?」とか言ったら、みんな注目するじゃないですか。でも、間が空いたんですよ。で、「鈴木さん、どうやってつくるんだっけ?」って言ったんです(笑)。本当なんですよ。

渡辺さん:
すごい場面に立ちあっていますね。

鈴木さん:
それで僕は「出会って、二人が愛を育む。で、起・承・転って、すれ違いが生じる」って言ったのを覚えています。そしたら「鈴木さん、わかった! ソフィーは魔法をかけられ、おばあちゃんになる、これがすれ違いだ。だから、それをつくるので皆さん、よろしく」って言って終わりなんです。いやー天才ですよね(会場笑)。僕ね、ここまで付き合ってきて、いまだに飽きないです。それの連続です。

渡辺さん:
鈴木さんは、天才を支える天才ですよね?

鈴木さん:
僕は単に普通のことをやっているだけです。見ていて、楽しくてしょうがないんです。何が出てくるかわからない。

渡辺さん:
宮崎さん、高畑さん、鈴木さん、この三人のやりとりが映画とか、アニメーションになったらおもしろいですよ。

鈴木さん:
演出が難しいと思いますね。人を笑わせようとわざとしているストーリーに思われがちじゃないですか。でも、本当なんですよね。こういう話は事欠かないぐらいたくさんありますよ。

渡辺さん:
「レッドタートル ある島の物語」のパンフレットの中に、マイケル監督へのインタビューがあるんです。「なぜ、レッドタートルなのか?」と聞いて、次に「なぜレッドなのか?」と聞いて、さらに「なぜタートルなのか?」と聞いています。ものすごく直球な質問が文章になっているんですけれども、できあがったものを観て、どう感じましたか?

鈴木さん:
できたものを途中からずっと観てきているでしょ? 実際の映像に差し替わってみたときに、僕思い出したんですけれど、「アラビアのロレンス」というデヴィッド・リーン監督の映画が大好きで、宮崎駿も大好きなんですよ。この映画は再上映された映画なんですけれど、僕が高校生の時の作品で、7~8年前に大きいスクリーンで観たら、発見があったんですよね。砂漠に対して人間が小さいんです。映画館でじーっと観ていたら、ハッと気づかされるんですよ。一人の一生なんて短いものでしょ。何千年の歴史、もっとあるかもしれない砂漠の中のちっぽけな人間たちがこの砂漠の地を巡って争いをやっているというのを思い出したんです。やっぱり人間も自然の一部なんです。マイケル監督はそれを身をもってやりたかったんだろうなって思います。「アラビアのロレンス」「ライアンの娘」「ドクトル・ジバゴ」もいい映画なので、観てください。宮崎駿の作品と比較対象するといろいろ勉強になることがあるんですよ。

渡辺さん:
10年の歳月をかけてつくられた「レッドタートル ある島の物語」は美しい映画ですよね?

鈴木さん:
島の全景がところどころに出てきますが、これが素晴らしい。「レッドタートル ある島の物語」のタイトルは、最初は「レッドタートル」だけでした。サブタイトル、「ある島の物語」にくっつけたのは、池澤夏樹さんっていう作家なんです。彼に絵本をつくってもらったんです。本編では登場人物が何もしゃべらないのですが、池田さんの絵本は島が語るんですよね。憎かったですよね。あのおじさんはすごいです。

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