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武蔵野美術大学で石井裕也監督&妻夫木聡のティーチイン付き試写会実施!

2014年12月15日

「バンクーバーの朝日」武蔵野美術大学ティーチイン付き試写会

<左から、妻夫木聡さん、石井裕也監督>

今週末から公開される「バンクーバーの朝日」。本作を監督した石井裕也監督が、12月15日、武蔵野美術大学に招かれ、映画・映像に興味を持つ学生たちを対象に特別課外授業を行いました。

当日はサプライズで、主演の妻夫木聡さんも登場! 大興奮の学生たちを前に、学生からの質問に答えるティーチイン方式で約1時間にもわたる講義を行った妻夫木さん、石井監督は、「超楽しい!」「時間の許す限りもっとやりたいぐらい」と大満足で教室を後にしました。美大生ならではの質問が続出したティーチインの模様をレポートいたします。

【ティーチイン(挨拶順)】

石井裕也監督

武蔵美...。大阪芸術大出身の自分からすると、武蔵野美術大学はオシャレで羨ましいなとずっと思っていました(笑)。初めて来ることができて嬉しいです。僕もスペシャルゲストなんですけれど、もうちょっとスペシャルゲストがいますので、紹介したいと思います(会場笑)。誰だと思いますか(笑)? 焦らしても仕方ないので、早速呼んでみましょうか(笑)。
妻夫木聡さん(レジー笠原役)

こんにちは(笑)。寒いよ、外で待っているの(会場笑)。


石井監督:
それよりこの(反応の)差はなんですかね(会場笑)。おかしくないですか?

妻夫木さん:
外で待っている時に教室から声が聞こえてきたんですけれど、先生が喋っているのかと思ったら監督だった(笑)。

石井監督:
今日は小口詩子先生のお誘い、ご尽力のおかげでこういう場を作ってもらうことができて、嬉しいです。

妻夫木さん:
ありがとうございます。今回は特に若い方に観てもらいたいし、僕自身もこの映画で目の前にある何かに一生懸命になったり、集中して何か物事に挑むということをすごく学ばせてもらいました。皆さんもこの映画を観てそういうことを感じ取ってくれていたらいいなと思います。そしてそういう風に感じ取ってくれたお客さんがまたみんなに広めてくれたら僕も嬉しいので、ぜひ何か物事に一生懸命になるという熱い想いを誰かに届けてあげてください。よろしくお願いします。

石井監督:
じっくりいろいろ感じられる映画になっていると思います。観てもらわないと分からないし、観客の人の目線とか想像力を介して初めて映画って成立すると思います。そういう映画を作ったつもりだし、よろしくお願いします。じゃあ、早速ティーチインに入りますか。

女性Aさん(視覚伝達デザイン学科1年):
何回もボロボロと泣かされて、画面が見えないことが結構ありました(会場笑)。すごく良かったです。石井監督は「舟を編む」で本当にたくさんの賞を受賞されて看板が増えたと思うんですけれど、そういうのを抜きにしても本当に良かったです。質問ですが、今回の映画では俳優さん同士のチームワークが素敵だなと思いました。各俳優さんの特色に合った役柄でのキャスティングも素晴らしかったと思います。役柄を決めていく上で、俳優さん同士のやりとりや、俳優さんと監督とのやりとり、話し合いは綿密に行われたのですか?

石井監督:
妻夫木さんとは「ぼくたちの家族」という映画に続いて2本目になるんですけれど、2本目ということもあって、相当二人で飲みに行きましたよね。

妻夫木さん:
はい、主に阿佐ヶ谷に(笑)。

石井監督:
特に今回は当て書き(あらかじめ俳優を決めてから台本を書くこと)で、前回やった妻夫木さんとは違う妻夫木さんを見せないといけないし、妻夫木さんにもそういう風にやらなきゃという気持ちもあったと思います。(前回とは)違う妻夫木さんを探りながら、クランクインする前もいっぱい話しましたし、現場でもかなり話し合った覚えがあるんですが、どうですか?

妻夫木さん:
最初にお話をもらった時は、題材と、石井監督が監督をされるということしか決まっていなくて、その時点で「一回ご飯食べましょう」ということでご飯を食べて、2回目にご飯を食べた時はたしか準備稿があがった時だと思うんですけれど、僕の役がはっきり定まっていない時だったんです。たしかに自分の中に前作から変えないといけないという思いもあったし、監督自身もたぶん違うものを見せないといけないと思っていたと思います。お互いにいろいろ思っていることがあったので、レジーという役はどういう役なのかどう演じるかという話をずっとしていました。
パターンなどはいろいろ話し合ったんですけれど、結局答えが出ずにそのまま現場に入っていったんです。それは迷っていた訳でも、ヤケッパチという訳でもなくて、役作りをしていくうちにパターンで決めることはできないんだなと思ったんですよね。一つに定まるよりもいろいろな要素を持っていることが魅力的であって、気が強いとか、気が弱いとか、明るいとか、暗いとか、そういう記号化されたことではなく、いろいろな要素を持っているからこそお客さんも感情移入をできるんだろうと思います。今の日本と変わらない日本人らしさも感じると思うんですよね。静かだけれど沸々と湧き上がるものを持っている人物を演じられたのは、結果的にやっぱり現場のスタッフ、キャストがお互いにすごく信頼しているからこそだと思います。現場に入ってみたら自然に演じられる感じがありました。「これだ」というのがなくても。監督は逆に亀梨(和也)くんが演じたロイとか、他の役の方にいっぱい細かい指示を出していましたよね。


石井監督:
これは基本的に気を付けていることなんですけれど、今回のレジーは特に余白が必要だったんです。お互いに話し合って言葉にできるような完璧な答えを出してから現場に行くよりは、どこか余白を作っておく方が面白いんですよね。お客さんは余白があるキャラクターを見て困ったりするかもしれない。でもそういう余白がない映画が最近多いから...。だけれど余白があっていろいろと想像できたり、感じたり、お客さんが能動的に考えられるものを今回は特に目指しているところがあったので、そういうキャラクター作りを今回は心がけました。

女性Aさん:
余白のあるキャラクターということですが、それぞれの俳優さんとの関わりの中で、その余白の色が変わるように心がけて演じられたのですか?

妻夫木さん:
一つ言えるのは、今回は計算式では演じていなかったですね。それはすごく不安なことでもあるんですけれど。台本を見て起承転結を考えて、この部分はもうちょっと盛り上がりを見せないといけないなとか、自分が高揚感を芝居として出していかなきゃと考えたりする時もあるけれど、今回はそういう計算をしちゃいけないと思ったんです。監督が言ったように、こういうスケールの大きな映画だからお客さんに観やすい芝居をというよりも、本当にその場でどういう風に生きているか、僕自身がレジーという人間としてどう生きられるかということを目指していました。
そういう思いはみんなにもあったと思います。だから、芝居のディスカッションもあまりなかったし、現場の空気を監督が特に大事にされていたので、監督はよく細かい演出よりも、「(チーム朝日としての)朝日感ってどういうものだろうね」ということを投げかけていました。それぞれが個人でバンクーバー朝日というものをどう捉えるか、どう演じるかというよりも、「自分たちにとってバンクーバー朝日ってなんなんだろう。どういう存在なんだろう」ということを考えることで、お互いの距離感が変わってきたり、バンクーバー朝日というチームができあがっていったというのは、今回すごく感じました。自然に起こったことをそのまま映してもらったし、そのために監督がいっぱい種を蒔いていたと思います。


男性Bさん(建築学科2年):
最初にポスターを見た時に「野球の映画かな」と思ったんですが、そうじゃなくて、カナダで日本人たちがどういう迫害や差別を受けていたのかというのが描かれていました。野球をする人たちだけじゃなくて、主人公の妹のエミーさんが日本人だからということでつらい目にあっても、日本人としての誇りを持っているのがすごく良かったです。...感想になっちゃったんですけれど、とてもいい映画でした、ということです。

女性Cさん(空間演出デザイン学科4年):
すごくストイックな映画作りで大変楽しませてもらいました。私は時代衣装などを勉強していて、製作のために映画などを観て勉強することが多いです。今回の「バンクーバーの朝日」の絵作りにおいて監督が意識なさった作品や、参考になさったものがあれば教えてもらいたいです。あと、妻夫木さんも自分に影響を与えた作品があればぜひ教えてもらいたいです。

石井監督:
一番参考になったのは「アメリカンパスタイム 俺たちの星条旗」という作品です。これはアメリカ映画で、日系アメリカ人が撮っている映画なんです。(「バンクーバーの朝日」と)同じような話でアメリカの強制収容所で野球をやったという話です。あまり批判をする訳ではないんですけれど、日本人がキャスケット帽子とか、サスペンダーをすると、おかしいんですよ。たとえば今、僕がキャスケット帽子でサスペンダーをしていたらおかしいですよ(会場笑)。七五三みたいですね、どうしても(笑)。要するに、日本人の体形に合っていない訳です。当時の戦前のカナダ人たちが着ていたからといって、その様子をそのまま映画にするとものすごくひどい有様になってしまうので、帽子から洋服から全部汚してしわをつけて、その人がずっと着ていたように作るのに苦心しました。
それに加えて、この映画は日本で作ったんですけれど、カナダの空気感、風みたいなものを表現するために、画面の調子もいろいろ探って作っています。ヘアメイクで肌の質感も調整しています。日本映画に白人が出てくるとものすごい違和感があると思いますし、またはその逆で向こうの映画で日本人が出てくると変に見えることがあると思うんです。それは絵を探りきれていないのだと思います。違う人種を共存させるって、ライティングも含めてすごく難しいんです。彫が深いと顔に影が出ちゃうとか、肌色が浮いちゃうとか、そういうところもいろいろなスタッフと話し合う中で絵を作っていきました。


妻夫木さん:
僕自身、役の参考にしたものはないんですけれど、野球映画はだいたい観たんじゃないかなと思います。「42 ~世界を変えた男~」と「マネーボール」と「ナチュラル」と...。僕自身が一番参考になったのは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の風景と空気感。5人ぐらいのギャングの話なんだけれど、今回も(主要人物が)5人ぐらいで重なる部分があったので、その一人一人の感じや雰囲気はすごく勉強になりましたね。今回は差別や迫害というのも描かれるんだけれど、そういうのを受けながらも毎日つらい思いだけして生きていた訳ではないと思うんです。ささやかな楽しみに喜びを感じたりと、意外と幸せを感じることも多かったような気がするんです。僕らも今現在そうですが。だからこそ、あまり差別ということにだけ捕らわれず、(差別や迫害も)一度知識として飲みこんで、ゼロにしてもう一回スタートするというやり方にしていました。だから、最初の方の肉体労働の場面は大変だったけれど、野球をやっていたらその楽しさでいろいろな疲れも吹き飛ぶぐらいの気持ちで持っていけたらいいかなと思っていました。実際に野球が楽しいから自然と進められて、監督も僕たちを魅力的に描いてくれたので、言葉で説明する必要がなかったと思います。
(映画の)前半はセリフが少なかったと思うんですけれど、それは監督が細かく日常を説明するんじゃなくて人で見せて時代を感じさせるということをしていたのです。さすがだなと思いましたし、監督を信じて演じていました。
あと、衣装に関してですけれど、妥協をしてはいけないなと思います。ハリウッドの映画もいろいろ観て、当時のキャスケットにしてもどういうパターンがあるのか、いろいろ探り探りやっていたんですけれど、やっぱり監督がOKじゃなければOKじゃないんですよね。今回ほど衣装合わせが多かった現場はないと思うほどで、僕だけでも3回ぐらいやりましたよね。それぐらいこだわってやっていたので、粘り勝ちですね。


女性Dさん(映像学科3年):
私は昨年まで大阪芸術大学でフィルムの自主制作映画を作っていたんですけれど、今、フィルムの映画が衰退している中、フィルムで映画を作っていくのがいいのか、デジタルで映画を作っていくのがいいのか、分からなくなってしまいました。お二人はどんな風に考えているのか知りたいです。

石井監督:
フィルムについてですが、この映画はデジタルで撮っていて、この前の「ぼくたちの家族」と「舟を編む」はフィルムで撮っています。これは完全に僕の私見ですけれど、人間を捉えるメディアとしては、フィルムが今のところ最高だと思っています。もちろん予算のこともありますし、機動性の問題もあるので、「フィルムでやりたいです」と言うと煙たがられるし、どんどん現実的ではなくなっているんですけれど、やっぱりフィルムの良さというのは、独特の抽象性だという気がします。 映像をくっきり綺麗に撮れればいいということではないと思うんです。特にフィクション映画としては。たとえば、人が人を見る時にずっとこう至近距離では見ないですよね。だから、そこには抽象性があるんですよ。それがたとえば高画質だったり4Kだったりすると、人間の距離感みたいなものがデジタル的に排除されて、ありのまま見せられるんです。それはフィクション映画を作る上ではどうなのかなというところがあって...その点、フィルム映画というのは、温かさや温もりとかよく言いますけれど、そういうものなんじゃないかなと思います。

妻夫木さん:
僕は「ウォーターボーイズ」で初めて映画に主演して、その時に日本映画の素晴らしさというものを知りました。それからの10何年フィルムの現場にいて、撮影部の人たちがロールチェンジといって新しいフィルムに変えるのを見ることが好きだったんですよね。フィルム1巻って、14~15分ぐらいなんですよね。それを撮ったら、ロールチェンジといって、サードぐらいのカメアシ(=カメラアシスタント)の人がフィルムを交換するんです。それを「ああ、自分は映画の現場にいさせてもらっているんだなあ」という思いを噛みしめながら、眺めているのがすごく好きだったんですよね。映画の現場ってお金がないから、フィルムを回すのがもったいないんですよね。だからこそテストを何回もやって、段取りも何回もやって、本番は1回だ、と。まあ、最近では本番1回という監督は少なくなってきているんですけれど、基本的に本番は1回だという思いがあるんですよね。それほどフィルムというのは大事な存在です。デジタルというのは回しっぱなしにもできるぐらいだし、テープチェンジもすぐにできちゃうし、本番のありがたみというのはちょっとは薄れるなという気はします。デジタルにはデジタルの素晴らしさがあると思いますよ。風景を映せば奥行も出るし、そういう点は素晴らしいと思うんだけれど、やっぱりフィルムって基本的には写真だから、井筒監督は映画のことを「写真」と言うんだけれど、写真を1枚1枚パパパパッと撮られている感覚が役者にもあるんでしょうね。カチンコがカーンと鳴って、ウィーンと(フィルムカメラの)回る音とか聴いていると、やっぱり演じていても気合いが入るし、フィルムはやっぱりいいですよね。これからの時代ではどんどんなくなっていくかもしれないけれど、僕にとっては残ってほしいなと思う存在です。

男性Eさん(視覚伝達デザイン学科1年):
街並みがCGかセットなのかよく分からないぐらいリアルに感じました。時間の移り変わりも、朝昼晩と綺麗に流れるようだったので、没入感を得ることができました。その辺で気を付けていたこととか、役者さんも時間が変わることでこうしようと思ったことなどはありますか?

石井監督:
そう言ってくれて嬉しいです。画面の中にいろいろ観るところがあって楽しいですよね(笑)。あれはセットなんですけれど、映っているものは、ほぼセットですね。栃木県の足利市に野球場とあの街をオープンセットで作りました。バンクーバーの北側には山があるんですけれど、その山とか、街の奥にあるものは現地で撮った素材をCGで合成していますが、前景にあるものはほとんど作ったものです。こだわったところといったら、外国の映画で日本を舞台にしたものを僕らが見たら「これはないぞ」と思うものって結構あるじゃないですか。日本を誤解して作っちゃったような。今回はその逆パターン、日本で外国を舞台にした映画を作るという意識が常にあって、バンクーバーの現地の人が観ても楽しめて納得してもらえるようなものを作るために、持っている小道具から衣装、走っている車といった細部まで、いろいろなものをとことん調べ上げてやるということを心がけました。時間の移り変わりもそうで、あとは日本人街とカナダ人街の差、それは照明的なものであったり、空気感、音もこだわりました。

妻夫木さん:
今回は僕自身が経験した中でも一番大きなセットでした。それまでで一番大きかったのは「ザ・マジックアワー」の種田さんが作ったセットで、それも素晴らしかったんですけれども、今回は球場を作って、その周りに街を作っているので、そのセットに入るだけでその街の住人になれるような気がしました。そんな力を持ったセットだったんですよね。皆さんにも分かりやすい例で言うと、ディズニーランドに入るとディズニーの世界に来たような感覚になるじゃないですか、「夢の国だな、ファンタジーだな」と。ああいう感じに似ていると思います。セットに入ると、自然と僕らを受け入れてくれているという感覚になりやすいんです。だから僕らはそれに乗っかっていって、ただそこで生きればいいという風にやっていましたね。
ただ、セットはセットなので、作ったものに脚色するという工夫は必要だったと思うんです。特に監督は季節感を大事にしていました。よく見ないと分からないと思うんですけれど、撮休を1日とって、球場の芝の色を変えるためにペンキで色を塗っていたんです。結構な量なんですけれど、芝の色を変えて季節感を出す。夏が来たら野球のシーズンが始まって、そこから高揚感が増していくので、緑の芝生にしたいということだったと思うんですけれど...。最初に僕たちが練習している時の球場は枯れ草っぽい感じでした。そういう細かいことをやっていましたね。あと、じとじとしている感じですね。バンクーバー自体、あまり天気がいいところではないので、濡れた地面を作るために毎回地面に水を撒いて、でも、水はけが悪いから水たまりができちゃったりもするんですけれど、美術さんだけじゃなくて助監督もどのスタッフも関係なくみんなで水を撒いて作っていました。映画って、地味にみんな頑張ってやっているんですよ。全然映っていないところまでやるからこそ、すごく絵が生きてくるというか、みんなで関わっているからこそ、その作品に対する想いが一つになるというか。そういうのが日本映画では特に大事にされているので、今回の映画もそういう想いは乗っかっていると思います。


男性Fさん(油絵学科1年):
今回、ティーチイン試写会のスタッフをやらせてもらいました。とても素晴らしい映画をありがとうございました。大変恐縮なのですが、私たちスタッフでプレゼントを作らせてもらったので、プレゼントしてもよろしいでしょうか?

女性Gさん(映像学科1年):
私もプレゼントしたいものがあるので、お渡しします。

■ここで、武蔵野美術大学の学生スタッフさんたちから、妻夫木さん、石井監督を描いた鉛筆画とゴム判がプレゼントされました!

妻夫木さん:
うわ、すごい、上手だね!

石井監督:
これは嬉しい。ありがとうございます、本当に。

妻夫木さん:
監督、いいね(笑)。かなりかっこいいですね。

石井監督:
来て良かった、本当に(笑)。

女性Hさん(4年):
気持ちいい映画をありがとうございました。一つの野球の試合を観ているような気がしました。何かと戦った映画なんだなというのをすごく感じました。夏になった瞬間に空の色が変わって夏になったのをすごく感じました。シーンによって、空の色や空気の色が変わっていったのがすごいなと思いました。私も(監督の出身大学と同じく)大阪出身なんですが、新潟県に行った時に全然空の色が違っていました。撮影した栃木の空の色をバンクーバーの色と合わせるのも大変だったんじゃないかと思うのですが、どう合わせたのですか? あと、私は今4年生で最後の卒業制作をやっているので、体調管理をしっかりしようと思っています。俳優さんも体調管理は大切だと思うんですが、何かオススメの体調管理法などがあれば教えてもらえると嬉しいです。

石井監督:
空に関しては、もちろんバンクーバーに合わせるのも大変だったんですけれど、撮影している季節の中で夏と冬を表現しなきゃいけないというのが大変でした。冬のバンクーバーというのは小雨がしとしと降り続いて、あんまり晴れる時間もなくて、寒くて鬱屈としている。そして夏はカラッとしている。僕もバンクーバーに行ってロケハンして、他のスタッフが帰ったあとも3日間ぐらい残って、ずっと公園で寝転がったりしていたんですよ(笑)。その時に思ったんですけれど、実はバンクーバーの青空と日本の夏の青空ってそんなに変わらないんです。でも空気がなにか違うんですよね。だから、この映画で夏の空を狙う時はもちろん晴れを狙ったんですけれど、絵の質感を変えたり、色を変えたりという作業をしました。難しかったです。

妻夫木さん:
体調管理はしていないですね...。僕は本当に不器用なんですよね。本番前にスイッチを入れられる役者だったらいいんですけれど、僕はできないんですよ。だから、映画が始まる1カ月前ぐらいからあんまり仕事を入れないでもらうんです。本当に作品に没頭しちゃうんですよね。身を捧げてしまうというか。だから、私生活までが役に引きずられるところがあって、食べるものが変わってきちゃったり、顔つきも変わったりするんです。それがいいことか悪いことは分からないんですけれど...だから体調管理はしていないんです。
今、卒業制作をしているところということですが、これから寝られないでしょうね。僕も「ウォーターボーイズ」が終わったぐらいの頃に自主映画に参加させてもらったんですけれど、3日、4日ぐらいで撮らなきゃいけなくて、本当に寝られなかったです。その中で何が一番支えになったかというと、食べ物です(笑)。食べるもので(役者やスタッフの)胃袋を掴まえておけば大丈夫です。役者もスタッフもある程度は言うことを聞くと思います(会場笑)。頑張ってください。


男性Iさん(映像学科1年):
僕も監督を目指しています。脇役で池松壮亮さん、田口トモロヲさん、大杉漣さんといった大物が出ていたんですけれど、そこまで脇役にこだわった理由を教えてください。あと、役者の撮り方に迷いはなかったですか? あと、関係者へのインタビューをどのようにどれぐらいしたのか聞きたいです。

石井監督:
最後の最後に大きいのが来ましたね(笑)。グランドホテル方式というのを初めて聞いたんですけれど...(笑)。あんまりアップショットが好きじゃないんです。アップショットってその人の顔しか情報がなくて、それよりはみんなが映っているという方がいいなと思っています。ロングショットになろうが、フルサイズになろうが、僕はそっちの方が好きなんです。アップショット、好きじゃないな(会場笑)。2個ぐらいあればいいんじゃないですか、映画に。

妻夫木さん:
いや、結構ありましたよ(笑)。

石井監督:
結構あった(笑)? 印象的なアップは2個ぐらいあればいいんじゃないかなと思いますね。僕はモニターを見るのが嫌いなんですけれど、たとえば妻夫木さんのアップショットを撮っている時、妻夫木さんしか撮っていなくてもその目の前では別の役者さんが全然映っていないのに芝居をしている訳です。そういう場合、僕は映っていない人の芝居を見るのが好きですね。芝居というのは空気だと思うので、ものすごく素敵な場所を作ることができれば、別にアップだろうが引きだろうが観ていて面白いんじゃないかという持論があります。
それから脇役は...これだけのバジェット(予算)で、これだけの規模の作品だからできたというのはありますけれど、やっぱり出演している俳優の人たちはみんな大切ですよね。誰一人無駄にできないし、おろそかにできない。だったらそんな役作らなきゃいいということになるので。だから、ここまでこの人を持ってくるかという風にも思いましたし、ビックリもしましたけれど、また新しい発見もありました。今回はエキストラも含めて全出演者が重要でした。さっき感想で言ってくれた人もいましたけれど、野球だけの話じゃなくて、バンクーバー朝日のエネルギーや一生懸命野球をやっている姿があった上で、周りの街の人、それ以外の白人の人も観ることで何か感じることがあって、僕も明日から頑張ろうぜという話なのです。朝日も大事だったけれど、それを見ている人たちも、出番は少ないけれどそれをどういう表情で見ているかがすごく大事だったのです。今回はすごく贅沢にやらせてもらいました。


妻夫木さん:
インタビューというよりは、今回、僕らはバンクーバーに行くことができなかったので、資料をとにかくいっぱい読んだということです。実際にバンクーバー朝日のメンバーだった方が一人ご健在でいらっしゃって、そのケイ上西功一さんにはこの間バンクーバー国際映画祭に行った時にお会いすることができたんですけれど、それまでは僕らはバンクーバーに行くことができなかったので、誰かにインタビューすることはできなかったですね。YouTubeでケイさんのインタビューを観たりはしていましたけれど。監督は会ったんですか?

石井監督:
会いました。こういう話だから、ありとあらゆる資料と、話を聞ける人はほぼ全員会っていると思います。調べないとこの映画はできなかったですね。いろいろと調べるのは大変だから好きじゃないんですけれど(笑)。今回はやらざるを得なかったです。それで発見もありました。

妻夫木さん:
あと、絵の話をすると、たまたまこうして石井監督と2作続けて仕事をすることができたのですが、僕は本当に昔から石井さんと一緒にやりたいなと思っていたんです...まあ、役者の人はみんな思っていると思うんだけれど...「ぼくたちの家族」でご一緒できて本当に嬉しかったし、たまたまその後もこうして一緒に仕事をできる機会がありました。分かりやすくローバジェット(小規模予算)の映画とメジャー映画というものを続けてやることになったんですけれど、前々から気になっていたので石井さんに「ローバジェットの映画とそうじゃない映画って何か違いはあるんですか?」と聞いたら、「特に違いはない」って言っていたんです。ダイナミックに撮るとか多少撮り方が変わるところがあるとは思うけれど、石井さんにとっては映画は映画なんだというのを聞けて、すごく腑に落ちる部分がありました。
あともう一つ面白かったのは、石井さんはとにかく現場でカメラ横にいるんです。あんなにカメラ横にいる人は、僕は山田洋次さんぐらいしか知らないです(笑)。本当に珍しい監督なんだけれど、クレーンで撮る時もカメラ横にいるから、クレーンと一緒にこうやって逃げていくんです(会場笑)。それぐらいカメラ横にいる人です。それから、どんなに引きの場面でも意地でもモニターを見ないんです。でも、カット割りを全部が全部、自分で決めている訳ではない。僕はそれが不思議でした。現場で段取りとかしてみて、お芝居が固まったらカメラマンの方といろいろ相談しているんだけれど、そういう姿を見ていて気になって「カット割りってどうやって決めているんですか?」と聞いたら、「うん、まあ、その現場で...」というノリだったんですよ。でも、一ついい言葉だなと思ったのは、「いい芝居はどこを撮ってもいい芝居なんですよ」という言葉です。「ああ、なるほどなあ」と思いました。だから、僕とロイのシーンだったり、僕とエイミーのシーンだったり、随所に人の感情が揺れ動くようなシーンがあったと思うけれど、そういうところに限って長回しが多いんですよね。それで引っ張っていくというか。いきなりポンとアップを入れていたりテンポよく見せるという手法もあると思うけれど、人の感情の流れを途切れさせない。それが現場にいて一番感じたことです。だからこそ、さっきから言っている余白が生まれたりもするんだと思います。
人間ってそんなに簡単に感情をコントロールできないし、悲しいとか、嬉しいとか、楽しいとか、それだけじゃないじゃないですか。嬉しい時も泣いちゃったりするし、悲しくても笑っちゃう時もあったりするし、いろいろな感情が複雑にあるからこそ人間って素晴らしい。言葉で表現できないものを今回の作品では求めているし、監督は特にそういう人だと思うんです。その域を超えたい、映画が映画じゃなくなるというものをすごく目指しているんだと思うんですよ。...何を言っているのか分からなくなってきましたけれど、それぐらいすごい監督です(笑)。


■最後に、妻夫木さん、石井監督からメッセージが送られました!

石井監督:
さっき妻夫木さんが「超楽しかった。もっとやりたい」と言っていました(会場拍手)。それぐらい、時間の許す限りやりたいぐらいです(笑)。これから公開ということで宣伝っぽくなっちゃいましたけれど...宣伝してください(会場笑)。よろしくお願いします。ありがとうございました。

妻夫木さん:
本当にありがとうございました。すごく楽しみにして来ていて...武蔵野美術大学ってすごく昔憧れがありました。みんな目がキラキラしていて、これからの夢や希望に満ち溢れているんだなと本当に思います。よく監督と池松壮亮と飲んだりするんだけれど、その時に印象深い言葉を聞いて...「映画は信じること」という言葉なんです。いい言葉だなと思ったんですよ。芝居も信じることだし、みんなもこれからいろいろなことがあると思うけれど、信じることはすごく大事だと思います。だからこそ今目の前にあるものに、くじけないでください。失敗したっていいんですよ。僕なんか何百回と失敗してきたし、本当にくじけそうになってきたけれど、好きだから続けられるということが絶対にあるから、そういう自分を絶対に信じてあげてください。一生懸命にぶつかってください。これからの可能性をどんどん広げていってほしいです。今日は本当にありがとうございました。